これでいいのか日本の医療?   第22話 自律神経失調症は、うつ病ではありません。呼吸法で、自律神経を整えましょう。

うつ病と診断される前に、ケアしなければいけない病気の筆頭は自律神経失調症です。自律神経失調症はとても不思議な病名です。患者さんは、この病名をつけられると、妙に納得されます。診察台にお座りになり、第一声が『私は自律神経失調症です』とお話になる患者様もいます。ところが、自律神経失調症は、自律神経の検査をして診断されるわけではありません。病院の検査で異常がなく、患者様の訴える症状の原因がわからない時に、医師が仕方なくつける病名です。いったいどのように自律神経の具合が悪いかもわかりませんし、自律神経失調症を治す薬もありません。

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自律神経は、何やら得体の知れない物のようですが、ちゃんと見ることができます。これは、私が、米国ハーバード大学に留学したときに、内耳の自律神経を世界で初めて観察した写真で、数珠状の黒い繊維が交感神経です。自律神経は、全身にはりめぐらされ、私たちが環境に適応して生活できるように調節してくれています。自律神経は、アクセル役の交感神経と、ブレーキ役の副交感神経のバランスが大切です。

 

『自律神経のバランスを取りましょう』という本が沢山あります。現代はストレス社会で、交感神経が優位ですから、副交感神経を高めることで自律神経のバランスを取りましょうという内容のことが多いようです。これは、ある意味正しいのですが、すでに体調を崩してしまった人には間違いです。交感神経が活発な時は、それなりにやる気もあり、きついなーと思いながらも体は動き、体調は比較的いいのです。この段階で、副交感神経を高めて、バランスを取るのはいいことです。

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自律神経は見ることができるように、そのバランスを検査することもできます。一般の病院では行っていませんが、当院では、脈拍の変化から、自律神経のバランスや、肉体疲労の程度を検査しています。体調不良を訴えて当院を受診された240名の患者様の自律神経の検査をすると、半分以上の方は交感神経がすり切れている状態でした。副交感神経機能は、保たれていることが多いので、相対的に副交感神経が優位となり、何となくからだがだるい、やる気がでないといった症状の原因となっていました。この状態の方の副交感神経を高めると、さらに自律神経のバランスは崩れてしまいます。そうすると、体がだるく、だらだらして、いつまでもベッドから起きられない。仕事、勉強をしたくないという状態になり、問題はさらに悪化します。

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ご自分の自律神経のバランスが、今どうなっているかを知ることが大切です。自律神経の検査を受けると、はっきりと自分の体調を目で見ることができます。検査結果をお話しすると、患者様はまるで言い訳をするようにご自分の生活の問題点を話し始めます。睡眠不足、食事が不規則、仕事のストレスを抱えている、介護で疲れがとれない、休みが取れない、・・・・・・・・などなど

そして、ご自分で日常生活を注意されるようになります。

 

睡眠不足の場合は副交感神経の機能低下が見られます。副交感神経がすり切れてしまっている方には、まず睡眠を十分に取り、体を休めること、温泉旅行などリラックス出来る趣味をお勧めします。交感神経、副交感神経共に低下している方は、以前お話しした睡眠時無呼吸症候群の事が多いので、その治療が必要です。

 

仕事が忙しい方、ストレスを感じている方は交感神経の機能低下が見られます。交感神経がすり切れてしまうと、薬をのんでも、いくら体を休めても回復しません。ご自分が楽しみながら、軽く汗をかくくらいの有酸素運動をすることが交感神経を回復させるのに有効です。ウォーキングや、ラジオ体操、ヨーガの太陽の礼拝、チベット体操などがお勧めです。最初は体を動かすのがおっくうですが、運動を始めると体調がよくなるのを実感できます。1日15分の運動の習慣を毎日の生活に取り入れると、交感神経が再生します。交感神経が戻ると、自律神経のバランスがとれて、体調が回復します。

 

1970年代にハーバード大学のグループが自律神経をコントロールする方法を研究しました。最も、有効だったのは、呼吸を調節することでした。自律神経が作用する発汗、心臓の拍動、呼吸、消化などのうち、自分の意志で変えることができるのは呼吸だけです。呼吸を早くすると、交感神経が高まり、深呼吸すると副交感神経が高まります。さらに脳内で自律神経を制御している『幸せのホルモン』セロトニンも呼吸法で増やせることがわかりました。

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『幸せのホルモン』セロトニンが脳内に十分あると、感情に左右されずに心のバランスを整え、安らぎをもたらしてくれます。ストレスがあっても平常心を保ち、心身を安定させ、いやなことから頭を切り換えて、ストレスを上手に避ける事が可能になります。まさに幸せをもたらしてくれるホルモンです。

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セロトニンの他にも、脳内で大切な働きをするホルモンがあります。ドーパミンとノルアドレナリンです。『やる気のホルモン』と言われるドーパミンは、喜びや興奮、報酬に反応して活性化され、意欲、モチベーションが高くなるホルモンです。お金、名誉、快楽などに反応します。不足するとやる気が出ないなどの症状が出ますが、暴走すると欲望が抑えられなくなり、アルコール依存症、ギャンブル依存症、買い物依存症、インターネット依存症、ゲーム依存症などの依存症状が出てしまいます。

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一方、『怒りのホルモン』と呼ばれるノルアドレナリンは、ストレス、不安や恐怖に反応し、血圧が上昇し、心臓がどきどきし、脳に緊張をもたらし、集中力をアップし、危険に対応できるようにします。不足すると集中力が欠如しますが、暴走すると攻撃的になり、動悸、息苦しさなどパニック障害、強迫性障害、潔癖症などの原因となります。

 

現代社会では、ドーパミン、ノルアドレナリンの暴走が起こりやすい環境にあると言えます。セロトニンは、ドーパミン、ノルアドレナリン等の感情的な要素をコントロールし精神を安定させてくれます。

 

この様な大切な働きのセロトニンが欠乏してしまう生活があります。夜勤が多く、休日には昼近くまで寝てしまう昼夜逆転の生活リズム。デスクワークが主で、労働時間が長く、慢性ストレスがある。仕事が忙しく、運動はしない。スマホや、インターネット、ゲームに熱中するなど夜更かしが多い。一人で食事することが多く、偏った食事をしている。こんな生活を続けるとセロトニンが欠乏します。女性の方が、男性の2倍セロトニンが欠乏するリスクが高いと言われています。

 

セロトニンが不足すると、寝付きが悪くなり、朝、布団からなかなか起きられなくなります。いやなことをいつまでもくよくよと悩み続けたり、すぐにイライラして、きれやすくなったり、ちょっとしたことで落ち込んでしまい、気力がわかないなど、いわゆるうつ状態です。低体温、低血圧、急におなかが痛くなる、過敏性腸症候群、胸が苦しくなる、食欲が無い、疲れやすい、慢性疲労、痛みに弱いなどの症状が出ることもあります。

 

前回お話ししたように、うつ状態の方では脳内のセロトニンが減少しています。副作用のある抗うつ剤に頼らないでも、生活を注意することでセロトニンを増やす事ができます。リズミカルな運動(呼吸法、ウォーキング、よく噛む,ラジオ体操)、太陽を浴びる、早寝早起きなどの生活習慣はセロトニンを増やしてくれます。運動開始5分でセロトニンが活性化し、20~30分でピークになります。そして運動の習慣を3ヶ月継続するとセロトニンの活性化が持続するようになります。セロトニンの原料のトリプトファン、ビタミンB6、炭水化物を多く含む、大豆、乳製品、バナナ、アボガド、ナッツ、赤身の魚を十分に摂ると、セロトニンの産生が更に増えます。スムージーはとても、セロトニンにはいいですね。セロトニンが欠乏しやすい生活習慣を見直して、『幸せホルモン』が増える毎日に変えていきましょう。

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季節の変わり目に体調を崩しやすいと、お話になる患者様が沢山いらっしゃいます。その代表が、五月病です。年度初めの環境の変化で交感神経をすり切らしてしまったところで、ゴールデンウィークに突入し、一気に副交感神経優位になることで、発症します。だるくて、意欲がわかず、胃痛や腰痛、頭痛などの症状も出てしまいます。典型的な自律神経失調症で、病院で診察を受けても異常が見られません。今年のゴールデンウィークは10連休になります。今日からでもセロトニンを活性化し、自律神経のバランスを整える生活習慣を始めましょう。そして、三日坊主にならないよう頑張って下さい。ストレス社会を生き抜く、健全な心と体を獲得することができるでしょう。そして、うつ病と間違われることもなくなります。

 

朴澤 孝治 

hozawa (2019年3月16日 18:12)