朴澤耳鼻咽喉科

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2022年10月22日

【Dr.ブログ】のどが詰まって、声がうまく出せない 痙攣性発声障害という病気があります。

 

 

痙攣性発声障害という病気のことを知らない方がほとんどだと思いますが、
とても困った病気です。
困る理由がいくつかあります。

1.患者様にとって、困った点
この病気で命を奪われることは決してありませんが、
声の障害のため仕事を続けられなくなるほど、
社会生活上大変な苦痛を背負います。



2.家族、仕事の同僚、上司など周囲の人にとって困った点
これまで、元気に働いていた人が、
声が出なくなり、仕事に支障が出てくる。
お客さんから苦情をいわれる。
病気とは思わず、本人につらく当たり、これにより、病気を悪化させてしまう。
最終的にご本人が仕事を辞めざるを得ない状況まで
追い込んでしまうこともあります。

3.医師にとって困った点
病名は知ってはいるものの、具体的にどんな症状なのかわからない。
医学書には、文字や写真の情報は豊富ですが、音の情報は無いため、
実際に患者様がどの様な声なのかがわからず、診断できない。
声帯は正常に見えるので、異常ありません、
精神的なものでしょうと言って、向精神薬を処方する。
症状の改善は得られない!?

痙攣性発声障害の患者様の声は特徴があるので、一度聞けばすぐに診断ができます。
当院の看護師さんは、患者様の問診をとっただけで、
痙攣性発声障害の患者さんがいらっしゃいましたと、私に報告してくれます。

それでは、痙攣性発声障害の方の声とは、どんな声なのでしょうか。
結婚式のスピーチなどで、緊張のあまり、
声が詰まってしまう方がいらっしゃいます。
皆さんも、緊張しすぎると、声が震えて、
絞り出すような声になってしまうことはありませんか?
聞いていると、とても苦しそうで、
緊張感が伝わりますし、途切れ途切れで聞き取りにくいものです。



緊張すると声が詰まる方も、
家族や友人とリラックスして話す時に普通の声に戻れば、問題ありません。
ところが、痙攣性発声障害の方は、いつも、詰まるような声です。
時と場合で変化することはあまりありません。
特に大きな声を出さなければならない時、震えは強くなります。

お客様に
「いらっしゃいませ」
「有り難うございました」
など、お話しするとき、特に最初の言葉が詰まってしまいます。
「きおつけ!」
と号令をかけなければならない方が、号令をかけられなくなった事もありました。

残念ながら、この病気の原因はまだわかっていません。
左右の声帯が内側に強く閉まりすぎるために、
息を吐くことができず、声が詰まってしまうのです。
日本でも、近年の競争とストレスの多い社会環境の下、
患者様が増えてきたように思います。
特に声を使う職業の方に、多い傾向があります。



それでは、どの様に、治療をしたらよいのでしょうか?
私が、喉頭形成術2型という局所麻酔の手術をお薦めしています。
日本で生まれた、世界から評価の高い音声外科手術です。
首のしわに沿って、約3~4cm皮膚を切開し、
左右の声帯の間を数mm開くことによって、声帯が閉まりすぎるのを防ぎます。
患者様の声を確認しながら、どれくらい広げるかを決めます。
患者様も手術中に、どの様な声になるか、ご自分で確認することができます。
痛み止めをするので、それほど痛みは感じず、1時間以内に終了します。
首の傷も、ケロイド体質がなければ、しわにまみれてわからなくなります。

この手術の良い点は、1回の手術で症状が改善し、
術後は自分が痙攣性発声障害であるという意識が無くなる点です。
術後、もとの職場に復帰された方、
これまで自宅ににこもりがちだった方が、また就職活動を再開するなど、
患者様が社会生活を再生されていくのをみるのは大変素晴らしい事と感じています。
手術の後、言語聴覚士による音声治療を3~6ヶ月行うと、
仕事でも、日常生活でもほとんど問題ない声になります。



術後に、音声治療をお勧めするのは、理由があります。
痙攣性発声障害の患者様は声帯に問題があって声がうまく出ないので、
舌やのどちんこなど声帯以外の部分を工夫して
何とか声を出そうとする癖がついてしまっていることが多いのです。
手術をして声帯の問題が無くなっても、
この癖が残っているといい声になりません。
この癖を取るために、言語聴覚士による音声治療が大変有効なのです。

皆さん術後、3~6ヶ月の音声治療で、とてもいい声になり、治療終了となります。
自分は痙攣性発声障害と自覚しないで、毎日の生活を送れるようになり、
病院に通院する必要もなくなります。

いつも自分がある病気だと感じながら、
薬を飲んだり、様々な注意をしながら生活するのと、
病気が完治し薬を飲んだり、定期的に病院に通院する必要もなくなり、
自分はその病気から解放されたと感じる状態になることは、
患者様にとって全く違うことだと、私は考えます。



欧米では、ボツリヌストキシンという、筋肉を麻痺させる毒素を、
声帯の筋肉へ注射する治療法が一般的です。
左右の声帯が閉まりすぎるのを、改善します。
注射して1ヶ月はややハスキーボイスになり、
次の1ヶ月は良い声になり、そして徐々にまた声がつまってきて、
また注射をするという繰り返しで、
患者様は病気から解放されたと感じることは出来ません。
私は、あまりお薦めしていません。

ご自分が、痙攣性発声障害ではないかと思われる方、
お知り合いにその疑いのある方がいらっしゃる方は、
是非、専門医を受診するよう勧めてあげて下さい。
痙攣性発声障害は、治る病気です。
一日でも早く、痙攣性発声障害の苦しみから解放してあげて下さい。

院長

 

 

 

YouTube 解説はこちら下矢印

 

声がつまる、震える、痙攣性発声障害のお話。

 

痙攣性発声障害は、なかなか耳鼻咽喉科に行っても、正しく診断がうけられず、中には、心の病として精神科受診を勧められる方もおられるようです。しかし、精神的な病ではないので、精神科の薬を飲んでも改善しません。今回は、痙攣性発声障害について、声の専門家として実際の症例も交えてご説明いたします。医療従事者にもおすすめの内容です。 

 

右矢印痙攣性発声障害の実際の症例。 

右矢印痙攣性発声障害の実際の声帯の動き。 

右矢印痙攣性発声障害の治療方法。

 

 

 

 

 

 

 

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