前回のブログを読んだ方から、睡眠は何時間とればいいですかと聞かれました。睡眠時間に関して様々な統計がありますが、こと健康に関しては、統計は当てになりません。ナポレオンは3時間の睡眠で十分でしたし、アインシュタインは9時間以上寝る必要がありました。私たちは、遺伝的に雑種で、一人一人異なります。決められた睡眠時間はありません。

 

 睡眠中は、約90分(70〜110分と人により幅があります)間隔でレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されます。レム睡眠は、体は寝ていますが、脳は半覚醒状態で、夢を見る事もあります。ノンレム睡眠は脳も寝る時間で、最初のノンレム睡眠時に成長ホルモンの分泌が起こります。最初のノンレム睡眠を熟睡すると質の高い睡眠になります。ですから睡眠時間は3時間以上で、約90分の倍数がいいと言うことになります。ご自分に合った睡眠時間を見つけて下さい。

 

 この、レム睡眠とノンレム睡眠の周期が壊れる病気があります。睡眠時無呼吸症候群です。睡眠中に、10秒以上続く呼吸停止が、1時間に5回以上あると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。日本人の約2%、300万人が罹患していると考えられていますが、実際に治療を受けている方は40万人しかいません。

 

 睡眠時無呼吸の検査中のビデオを見ると、睡眠中の患者さんの呼吸が止まってじっと動かなくなり、血液中の酸素濃度が正常の100%からどんどん下がって50%をきり、危ない、死んでしまうと思った瞬間、溺れた人が水面に顔を出し大きく息をするように、体全身がビクッと震えて息を吸います。これを寝ている間に何回も繰り返します。朝起きたときが一番疲れているとおっしゃる方もいらっしゃいます。

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 正常の方と重症の無呼吸の方の検査結果を比べてみましょう。横軸は時間で、夜の12時から朝の5時過ぎまでの呼吸が記録されています。青が、呼吸の状態、茶色がいびきの音、赤が血液中の酸素濃度を示しています。上のグラフに示す正常の方は、呼吸が途切れることなく、いびきも少なく、酸素濃度もほぼ100%を維持しています。下のグラフに示す無呼吸患者さんの場合、呼吸も途切れ途切れで、いびきを休み無くかいています。そして酸素濃度は、乱降下し70%をきってしまっています。

 

 これでは、脳がおちおち寝ていられないので、ノンレム睡眠がなくなりますホルモン分泌が低下し、夜起こるはずの体のメンテナンスがうまくいきません。自律神経のバランスも大きく崩れてしまいます。自律神経は交感神経と副交感神経のバランスで体調を維持します。睡眠不足の方は副交感神経が低下し、働き過ぎでストレス過多の方は交感神経が低下しますが、睡眠時無呼吸症候群の場合は両方とも極端に低下します。

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 ご本人は十分な睡眠時間を取っているつもりでも、睡眠の質が最悪のため、様々な体の不調が生じます。めまいや、全身倦怠感、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、不整脈、うつ病、糖尿病などの症状で病院を受診する方もいます。睡眠時無呼吸症候群を治療することで、すべての問題が解決することも多いのです。

 

 睡眠時無呼吸症候群は、太った人の病気と誤解していませんか?扁桃やアデノイドが大きい子供さんや、痩せた方でも下顎が小さく、舌の収まりが悪いと無呼吸になります。ご高齢の方に比べ、30代より若い世代は、顔の横幅が狭くなるかわりに、前後方向に伸び、下顎は、大分小さくなっています。平たい顔族には少なかった、睡眠時無呼吸症候群が増えています。

 

 十分に睡眠時間を取っているつもりでも、睡眠の質が悪いと大変です。軽症と重症の睡眠時無呼吸患者さんのグループを9年間フォローした研究では、重症の無呼吸の患者さんが、9年間で30%も多く亡くなったというショッキングな結果が出ています。質の高い睡眠が私たちにとって如何に重要かがわかります。心配な方向けに、以下の質問をご用意しました。15点以上の方は、要注意です。早めに、病院で相談し、質のいい睡眠を心がけましょう

 朴澤 孝治

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hozawa (2018年11月17日 15:29)

 今回から、私たちの健康に影響する環境因子のお話をします。まず、最初に睡眠について、考えましょう。私たちは、1日の1/3近くを睡眠時間に充てています。寝ているので余り意識しないと思いますが、この睡眠が、健康維持にとても大切です。

 2017年のノーベル医学賞は、サーカディアンリズム(概日リズム)を司る時計遺伝子の機能を明らかにした3人の博士に授与されました。

 24時間で1回転する地球上で生活する他の動植物同様、私たち人間も、体内時計が有り、24時間のリズムで、睡眠と覚醒を初めとする様々な生物現象を繰り返しています。日中は、活動に必要な糖代謝が高まり、夜は、成長ホルモンや、プロラクチンが分泌され、ストレスの解消や、日中酷使した肉体や脳のメンテナンスがおこなわれます。

 睡眠と覚醒は、二つのホルモン、メラトニンと、コルチゾールのバランスでコントロールされています。朝、太陽を浴びると、副腎からコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは糖代謝を高め、昼の活動のエネルギーを確保すると同時に、ストレスからからだを守ってくれています。

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 暗くなると、コルチゾールの分泌は減少し、脳の松果体でセロトニンから、メラトニンが産生されます。メラトニンは、入眠と睡眠の維持を行う一方、老化の原因となる活性酸素の処理もしてくれます。そして、朝陽を浴びるとメラトニンの分泌が抑えられ、コルチゾールの分泌が再び高まります。

 このサーカディアンリズムが崩れると、集中力を欠いたり、肌が荒れたり、疲れがとれなかったり、様々な体調不良の原因となります。現代は、インターネットの発達で、グローバリゼーションが進み、昼夜の区別が付きにくくなり、それにあわせるように、24時間営業のコンビニなどもできて、サーカディアンリズムを維持するのが難しくなっています。

 ストレスが多いと、夜もコルチゾールの分泌が続き、眠れなくなります。ストレスを避け、夜は交感神経の緊張を緩めましょう。夜遅くまで、テレビやパソコン、スマホ、ゲームをしているとブルーライトを浴びて、メラトニンの分泌が低下します。食事、入浴は、就寝2時間以上前にすませ、夜のカフェイン、喫煙も避け、寝るときは寝室をできるだけ暗くしましょう。朝は、太陽の光を一杯浴びましょう。休みの日も、寝坊は避け、毎日のリズムを保ちましょう。サーカディアンリズムを保つ生活を心がかることが大切です。

 さて、メラトニンは、子供の頃に分泌が最も高くなりますが、成長とともに、どんどん分泌が減っていきます。メラトニンが少ないお年寄りは睡眠時間が短く、朝早いですね。

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 日本人の成人の約30%は、睡眠障害に悩んでいます。2017年の流行語に『睡眠負債』が選ばれたほどです。50才以上の方の6%、65才以上では9.4%の方が睡眠薬を常用しています。世界保健機構WHOでは、睡眠薬の適正使用は30日以内としています。ところが、日本では睡眠薬の80%はベンゾジアゼピン系が処方され、長期に投与されていることが多いのが現状です。この薬は脳の神経活動を全体的に落とすことで眠りやすくします。長期服用で依存症となり、離脱が難しくなり、転倒、ふらつき、アルツハイマー型認知症発症のリスクなどの副作用があります。

 若い頃は、メラトニンで眠っていたのに、年を取ったら、なぜ睡眠薬で眠らなければいけないのでしょうか? 少なくなったメラトニンを補充して眠った方が自然だと思いませんか? 

 海外ではメラトニンがドラッグ・ストアで、睡眠補助薬や、時差ボケの薬として売られています。日本では、ホルモン系のサプリメントは販売禁止です。ドーピングなど、危険なホルモンの使用は、あってはなりませんが、加齢により減少したホルモンを補充する治療は、超高齢社会を健康に生きるために必要です。

 日本はホルモン過敏症から脱して、安全なホルモン補充薬の確保と、医師の再教育を行い、危険で不要な薬を排除し、より自然な医療を行う環境を整えるべきです。繰り返しになりますが、目に見える症状に対症的に対応する医療より、大元の原因に働きかける医療の方が、安全で効果的です。

朴澤 孝治

hozawa (2018年11月10日 22:50)

 今回は、私たちの健康に影響を与える環境因子にどのようなものがあるか考えます。

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 厚生労働省が提唱する、スマート・ライフ・プロジェクトをご存知でしょうか?「健康寿命をのばしましょう。」をスローガンに、国民全体が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標とする、平成23年から始まった国民運動です。運動、食生活、禁煙の3分野を中心に、具体的なアクションの呼びかけを行っています。プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎さん、元マラソン選手の有森裕子さん、歌手の平原綾香さんが、いきいき健康大使として、広報の先頭に立っています。当院も、このプロジェクトに参加しています。

 

アクションの数は、多くありません。

 

1日10分の運動をする。

1日プラス70gの野菜を食べる。

禁煙をする。

定期的に健康診断を受ける。

 

この4つが、環境因子を改善する基本になります。国民運動としてはこれでいいと思いますが、専門的に健康寿命を考えるとこれだけでは不十分です。

 

 まず、睡眠です。私たちの睡眠時間は、1日の1/4〜1/3を占めています。睡眠中に、日中に作られた老廃物を処理したり、明日からの活動に必要な栄養を蓄えたりしています。睡眠が足りないと、お肌が荒れたり、疲れがとれなかったり、体調が崩れてしまいますね。睡眠は量、質とも、健康維持にとても大切です。睡眠薬やお酒にたよった睡眠ではダメですね。

 

 食も重要です。私たちが生きていくために無くてはならないビタミンCは、犬は体内で作る事ができるのに、私たち人間は作る事ができません。大航海時代、バスコ・ダ・ガマの180名の船員は、長い船上生活でビタミンCが欠乏し、半分以上が壊血病という出血性の病気で亡くなりました。必要な栄養素を摂ることが大切です。一方、有害なものを体内に入れることは避けなければいけません。日本は食品添加物大国で、なんと年間4〜7Kgの添加物を私たちは食べています。中には、海外では有害とされているものも含まれています。食事には、この他、腸内環境や、食物アレルギーなど、知っておかなければいけないことが沢山あります。そして、一度知ってしまうと、ジャンクフードやコンビニ弁当に頼り切った食生活を、後悔することになりますよ。

 

 運動も大切ですが、私たちにとって本当にいい運動とは何なのでしょう?高齢になるまで運動をさせず、年をとってから運動をさせたマウスは、寿命が延びるどころか早死にするというショッキングな実験結果もあります。お心当たりの方は要注意です。ただ運動すればいいのではなく、何を目的にするのかによって、運動の方法も変わります。

 

 職場環境、家庭環境などメンタルヘルスも大切な環境因子です。15才から39才までの日本人の死因の第1位は、大変悲しいことに自殺です。うつ病、更年期障害、自律神経失調症、慢性疲労症候群など曖昧模糊とした病名をつける前に、解決すべき問題があります。

 

 ホルモンバランスは、年齢によって大きく変化し、かつて経験したことのない超高齢社会で、ホルモンとどう向き合うかは大切な問題です。その上、環境ホルモンという体外からの、悪影響にも私たちはさらされています。人間が、地球を汚染し続けたしっぺ返しが、今静かに私たちの健康に影響しています。地球の健康を考えるホリスティックな視点も大切です。

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 前置きが長くなりましたが、次回より環境因子について具体的にお話します。次回は、睡眠について考えてみましょう。

 

朴澤 孝治

hozawa (2018年11月 3日 13:38)