朴澤耳鼻咽喉科オフィシャルサイト

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対談シリーズ第1回「統合医療を未来のスタンダードへ」桐村里紗・朴澤孝治

GUEST/桐村里紗(きりむら りさ)

1980年岡山県生まれ。2004年愛媛大学医学部医学科卒。内科医・認定産業医。

治療よりも予防を重視し、最新の分子整合栄養医学や生命科学、常在細菌学、意識科学、物理学などをもとに、執筆、Webメディア、講演活動などで、新しい時代のライフスタイルとヘルスケア情報を発信。

監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。

著書に、『「美女のステージ」に立ち続けたければ、その思い込みを捨てなさい』(光文社)、『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学』(光文社新書)など。

知っておきたい今の医療の問題点。
健康を守る秘訣とは?

朴澤
僕は耳鼻科医ということもあり、桐村先生の匂いの本『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学』は、興味を持って読ませていただきました。
桐村
ありがとうございます。
朴澤
なぜ匂いを感じるかというところから、最終的に生活習慣病や匂いの元となる病気にまで話が及んでいて、大変勉強になりました。とくに興味深かったのは、体臭や口臭と花粉症はまったく別のテーマですが、根底には同じ問題、同じ解決法があるとわかったことです。
桐村
たしかに匂いとアレルギーはまったくちがうインターフェイスですね。でも、私も朴澤先生の『花粉症は治る病気です』を拝読して、先進医療から統合医療まで網羅的に書かれているのを見て、根底には同じ問題、同じ解決法があると感じました。
今の医療は、どうしても木を見て森を見ず、枝を見て根を見ずという感じになっていると思いますので、あらためて大局的な視点を持つことが大事に思いました。
朴澤
そのあたりが、今回のテーマでもある「今の医療の問題点」にもつながっていきますかね。
桐村
私は以前、腎臓内科と糖尿病内科に携わったことがあるのですが、腎臓が悪くなった糖尿病の患者さんがいると「糖尿病内科では診られません」と、腎臓内科に丸投げの状態になってしまっていたんです。
科と科が分断されていて、病気の根源となったところは見ない状態で、部分を見てしまっている。これが今の医療の問題点に思います。
朴澤
僕は、西洋医学の問題点は臓器を対象にした医学であることだと考えています。僕たちはいろいろな臓器でできていますが、臓器のただの集合体ではなく、さまざまな臓器が協調し合って生きていますよね。
協調し合うためには、栄養や免疫、自律神経やホルモン、それにまだ十分に明らかになってはいませんが、体の中でいろいろな調整をするメッセンジャー物質などが必要です。
ただ、西洋医学は臓器しか診ないため、こういった調整をしたり、栄養を司ったりという面が非常に弱いですね。そこに問題があるときに、臓器だけを診ていると、なかなか本当の問題にたどり着けないように思います。
桐村
先生は本の中で、人間の脳も地球も、体も心もすべて繋がっていて、全体が有機的に繋がった中での医療だと書かれていました。
私は分断という問題が生じている状態の中で、一般の方たちも部分で捉えてしまっている気がしています。
朴澤
最近、テレビを観ていても、殺菌や消臭を促す商品のCMが多いじゃないですか。でも、そのCMの後に、今度は乳酸菌が必要だというCMが流れていたりして、一般の皆さんがどう受け取っているのか気になりますね。
自分のまわりの環境をできるだけ無菌に近い状態に保つことと、自分の体に細菌を取り込むことの矛盾に気づいていないようで、おそらく繋がっていないのではないかと思います。
桐村
そうですよね、繋がっていないでしょうね。テクノロジーの進化によって、菌というのは、実は病原菌だけではなくて、99.9%は人間の味方をする良い菌で、腸内に飼って、生命体として共生して、そして一緒になって体を養っていたことがわかってきていますね。
遺伝子解析の分野が進んだために、解明されてきたのが腸内フローラで、最近は腸活をなさっている方も多いようです。ただ、腸内フローラを気にするときには、外側の環境と繋がっている消化管のことを考えないわけにはいかないはずです。
でも、医者は腸内フローラは診てくれますが、口になると、首から上は歯科の領域なので、歯科医が診ることになります。口の環境が悪いと、フソバクテリウムやヌクレアタムなどを飲み込んでしまって、これは大腸がんの原因になることもわかっています。
口と腸は繋がっているにも関わらず、医科と歯科が分断されてしまっていることで、変な現象が起きているようにも思います。
朴澤
今は古典のアーユルヴェーダや中医学が言っていたことなどが、新しい科学によって説明がつく時代になってきていますよね。
だからこそ、心身一如で全体を診る統合医療的な考えになっていないという今の医療の問題点を踏まえて、どうするかを考える必要があると思います。
その意味で、西洋医学で臓器の不具合を治療して、補完医療で自律神経やホルモン、栄養や免疫を調整する。これが健康を守る秘訣になると、私は考えています。

症状を抑えるだけでなく、
治せる病気は治す

朴澤
私は10年以上前から、スギ花粉症の患者さんにアイゾパシー療法による体質改善を行っていますが、「花粉症は本当に治るの?」という質問をよくいただきます。
治ると思っていない方が多いのだと思いますが、実際には4年間治療すると80%の患者さんが、抗アレルギー剤を服用しないでも花粉シーズンを過ごせるようになっています。患者さんが治ることを証明してくれているんですね。
桐村
私が医局に入った頃の話ですが、生活習慣病で患者さんが来られたときには「あなたの乱れてしまった代謝はもう戻りません」「代謝は戻らないのだから、治らないことを前提でコントロールしていきましょう」と説明するよう、先輩の先生に言われていたんです。
患者さんは患者さんで「そうなんですか。わかりました」などと答えていて、治せると言うと「えっ、治せるんですか?」と逆に驚かれました。
治療する側も患者さん側も、もともと治癒力が備わっているという当たり前の事実を忘れてしまっているのはありますね。
朴澤
症状を抑えるだけで、病気を根本的には治さないというのは、対症治療中心の今の医療の問題点ですね。
花粉症で言えば、抗アレルギー剤を飲むのは症状を抑える対症治療です。今の医療はいろいろな病気に対して対症治療が行われていますが、これでは病気は治りません。
対症治療中心の医療から根本治療の医療に戻したいというのが、私の一番の希望です。
桐村
治癒力はもともと全員に備わっているものですから、治癒するプロセス、治癒する力が活動する状況に戻したら良いんですよね。そこを忘れないことが一番根本かと思います。
朴澤
現実には症状を抑えることしかないできない段階もありますが、健康と病気の間がすっぱり分かれているのではなく、仮に病気を黒とするなら、健康の白から黒へのグラデーションがあって、白に近い部分なら十分に戻すことができますからね。
そのためには、じゃあどうしたら良いかということになると、予防や生活環境の見直しが、やはり基本になるでしょうね。
桐村
私が匂いに関する本を書いたのも、予防医療として、病院に来なくても良いライフスタイルを提案したいという思いがあったからです。
ただ、健康でいるためにと正しいことをお伝えしても、なかなか伝わりません。それで注目したのが匂いです。
人間は五感で感じられるものしか認識できないので、体内の環境が悪いということは五感では感じられませんが、嗅覚は潜在意識にもダイレクトに届きますし、何よりくさいと対人関係にも影響するじゃないですか。
「体臭や口臭が臭いということは、つまり体内の環境が悪いんだよ。だから体内の環境を良くしましょう」。こういう切り口にしたほうが、興味を持って聞いてもらえるように思います。
朴澤
興味を持っていただかないと、なかなか伝わりませんからね。やや話は逸れますが、東北人は我慢強いとよく言われるじゃないですか。
桐村
雪を耐え忍ぶ、それで我慢強い性格になると言いますよね。
朴澤
東日本大震災のときにも、東北人の我慢強さが世界的に称賛されたのですが、私は我慢強いというのは良くないと思っているんです。というのも、自分が我慢すれば良いという考えや風潮が強くなると、症状があっても我慢してしまうからです。
たとえば、肩こりがひどい人が「肩こりはないです」などと我慢してしまって、ついには本当の病気になってしまう……。こうした例は少なくないですよね。
桐村
我慢が美徳という日本的な教育を受けていることもありますね。
朴澤
自分だけが我慢すれば良いと考えているのだと思いますが、その方が病気になったことで、お子さんが介護や看護のために好きな仕事を辞めて、面倒を見なければいけなくなったりもします。
介護退職と言いますが、我慢したことで、結果的に次の世代に苦労をかけることにもなってしまうんです。
桐村
病気はひとりだけの問題で終わらないこともありますからね。
幸せでいるために一番ベースにあるのは物理的な体、フィジカルな体であることを思えば、やはり、治せる病気は治せるうちに直すべきですね。
朴澤
私は東日本大震災で、対症治療の薬が東北に供給されなくなってしまって、たくさんの方が苦しむのを見てきました。
糖尿病が悪くなってしまった方などもいて、今まで健康だと思っていたのが、実は薬で維持されているだけだったと、そのときになって気づいたわけです。薬で維持される健康はすごくもろいもので、だからこそ、ちゃんと治さないと誰のためにもならないという思いがあります。
桐村
対症治療で症状を抑えるだけでなく、根本治療で病気を治していくためにも、生活環境の見直しや予防医療が重要な意味を持ちますね。

外側の情報よりも
体感を信じる

朴澤
今はインターネットが浸透したことで、誰でも簡単に情報を得ることができるようになりました。便利な面もありますが、その一方で、エビデンスがあるという情報でも、学者や医師によって正反対のことを言っていたりします。
少し先の時代になると、自分自身の状態や遺伝子の情報などを分析して「あなたにはこの栄養素が良い」「あなたにはこの生活が向いています」といったオーダーメイドの健康学が確立されると思いますが、一般の方が正しい情報を見極めるには、桐村先生は何が重要だと思われますか。
桐村
今も先端の医療検査はありますが、高額ですし、まだ完璧とは言えないですよね。だからこそ、ある程度の知識を持ったうえで、自分の軸を持つことが大切に思います。軸がないと、いつも誰かの意見に流されてしまいますから。
朴澤
おっしゃる通りですね。ひとつの情報がある人には正しいけれど、ある人には正しくないということがあります。
ひとつの例として動物実験の話をさせていただきますが、動物実験では、5匹に同じ実験をやって、3匹が同じ結果になれば、それが正しいと判断されます。同じ環境で、毎日同じ餌を食べている遺伝子が同じマウスだったとしても、同じ実験結果にはならないからです。
これに対して、私たち人間は雑種です。特に日本人は、縄文人と弥生人の混血です。元々の縄文人は匂いの元となるアポクリン線が多く、欧米人と同じでお酒も強いのですが、弥生人はそれが欠損しているためにお酒に弱いわけです。
このように私たちは遺伝学子的にもいくつかのタイプがあり、お酒をはじめとする外的な因子に対する反応が人によって異なるのです。
桐村
ひとつの情報が、みんなに正しいと言えないとすれば、次はどう軸を持つかですが、絶対に必要なものは何かと考えたとき、水やミネラル、微生物など、大切なものは限られているわけです。
この限られたものを必須のものとして大切にしたうえで、次にそれを保つにはどうしたら良いかという視点が大事になるのではないでしょうか。
その意味で、科学的じゃないと言われるかもしれませんが、私は体感を信じることだと思います。外側ばかり見ているのは、自分の体と向き合っていないのと同じです。
朴澤
お酒の代謝についても、実際にお酒を飲んでみて、自分にどういう反応があるのかを見れば、自分にアルコールを分解する酵素があるのか検査をしなくてもわかりますよね。
忙しさに追われていると、なかなか体の声を聴くことはできないかもしれませんが、私も体感は大切だと思います。
桐村
少し前にブームになった糖質制限が良いという情報にしても、実際に糖質制限したときに、体が軽くなって、エネルギー湧いて、意欲も満々という状態になるかどうかを感じてみる。
自分に合わなければしんどくなる。合っていたら良い状態になる。こうしたことを感じて取っていくことで、自分の軸ができてきます。
朴澤
誰かの意見に流されてしまったり、外側ばかり見てしまったりというのは、自分の治癒力を信じていないことと同じとも言えますね。
桐村
つい誰かの言うことを信じたり、外側の情報に頼ったりしてしまうものですが、自分を信じて、体の声を信じて、治癒力を信じる。
そうすることで、ちゃんと体感も得られるようになりますし、迷いもなくなります。
朴澤
体感を拠りどころに、自分の状態をしっかり把握することは、健康を守ることにつながりますね。今回は、貴重なお話をありがとうございました。