今回の東北、関東大地震ではこれまでに経験したことがないような大きな揺れを感じました。
揺れの時間も長く、その後の余震の頻度も大変多く、また強い揺れでした。
いま「実際には揺れていないのに揺れているように」感じたり、
地震なのか、めまいなのかわからないという方が多くいらっしゃいます。
最近これを「地震酔い」と呼ぶそうです。
車酔い、船酔いと同じだとのコメントもありますが、全く揺れていないときにもめまいを感じます。気持の問題だから、深呼吸をしてリラックスしてなどのアドバイスがのっています。
確かに余震に対する不安もありますが、
めまいははっきりと感じ、気持の問題だけでもなさそうです。
地震後の自分の経験、周囲の知人の様子、クリニックに来られる患者様の症状をもとに、
地震酔いとその対策について考えてみたいと思います。
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地震酔いとその対策
●私たちは、耳の中にある前庭からの情報、目からの視覚情報、
そして深部知覚によって、体の釣り合いを保っています。
立っているときは、目で見える周囲の様子と、足の裏の感覚が大切になります。
●たとえば、体が右に倒れそうになると、物が左に流れるように見え、右足裏の外側に体重がかかるのを感じます。前庭という場所には、三半規管と耳石器官があり、体が動いている方向と加速度を測定しています。通常は、耳、目、皮膚が送る情報はすべて一致しており、脳がそれを総合的に判断し、体が右に倒れそうだとわかると右手を伸ばして、体を支えます。
●耳、目、皮膚のセンサーに障害が起こり、正しい情報を、脳に送れなくなったり、
センサーからの情報を統合する脳に障害が起こると、今の自分の体の位置、
動いている状況が正しくわからなくなります。これが「めまい」です。
今回の地震のあとめまいを感じて受診される患者さんの原因を調べると、
決して単一のものではありません。
以下に、いくつかの例を挙げ、その対処法をお話しします。
①地震酔い?
体の釣り合いを保つ能力を検査する方法がいくつかありますが、
最も簡単にできるのが「マン検査」です。
綱渡りをしているように右足を前に出して、右足のかかとが左足のつま先に触れるように右と左の足が一直線になるようにしてもちゃんと直立できるかをみる方法です。
通常私たちは、この状態で、目をあいても閉じても30秒間立っていることができます。
ところが地震の後、この検査をするとちゃんと立っていられず倒れてしまう人が増えています。
私も、地震前は問題なく30秒間立っていられましたが、
地震の後、目を閉じて30秒間立つことができなくなりました。
地震後、約80%の人が目を閉じて30秒たつことができなくなっており、
このような人は、余震のような揺れを感じています。
地震前と同じように30秒以上立っていられる人は、めまいを感じていないこともわかりました。
私たちは、24時間で1回自転する地球上で、一定の重力を感じて生活しています。ところが、度重なる地震で、日常とは異なる大きな刺激が加わり、脳がセンサーからの情報をうまくコントロールできなくなっているようです。狭い部屋にいるときや、何もせず、ボーとしているときに揺れを感じます。広いところに出て、遠いところを見ると落ち着きます。こんな方は「マン検査」をして異常なら、センサーからの情報を統合する方法をもう一度、脳に教えてあげる必要があります。
これには軽い運動をするのが一番です。適度の運動により脳が刺激され、またセンサーからの情報を総合する力が戻ってきます。私は「ラジオ体操」をお薦めします。
国民のほとんどができる体操がある国は日本くらいです。
エコノミー症候群の予防にもよく、今こそみんなで「ラジオ体操」をしましょう。
地震揺れは、リハビリが大切で、じっと安静にしていてもなかなかよくなりません。
②体の中の電解質の異常
起き上がれないほどめまいが激しく、しかもほぼ一日中続く場合、
電解質に異常を来した可能性があります。
腎臓に問題がある方や、高血圧があり、利尿剤や、降圧剤を飲んでいる方の場合、
震災後、生活が不規則になり、薬が飲めなかったり、食事が偏ったり、水分摂取が不足すると体内の電解質バランスが崩れてしまいます。
耳の中の前庭は、ナトリウム、カリウム、カルシウムと言ったイオンが大切な役割を果たしており、これらが多くても、少なくても異常を来します。
病院に行ける方は、血液の検査をしてもらうと、原因がわかります。病院に行けない方は、腎臓が悪く、日頃水分や塩分の摂取制限を指導されている場合を除き「十分な水分をとること」が必要です。ポカリスエットのようなスポーツドリンクを飲むと点滴に近い効果が得られます。
できるだけ早く、日頃服用している薬を再開し、水分摂取を十分にとりましょう。
③前庭神経炎
以前、周りがぐるぐる回るようなひどいめまいが一週間以上続いた事がある方の場合、
耳の前庭から脳に情報を送る前庭神経にウィルスが感染していることがあります。
普段はご自分の免疫力により、ウィルスの活動は抑えられていますが、
地震後のストレス、不規則な生活で体調を崩すと「ウィルスが再活性化」といって活動を始めることがあります。そうすると、以前経験したようなぐるぐる回るめまいが再発します。
このようなときは病院に行って検査を受けた上で「ウィルスを抑える薬」を飲むことが大切です。
④メニエール病
元々メニエール病がある方、女性で、肩こりがあり血圧が低めの方が、
地震の後、どちらかの耳が詰まったような感じがし、
耳鳴りがして時々ぐるぐる回るようなめまい発作があり、
発作がないときはふらふらする感じがあればメニエール病の可能性があります。
どちらかの耳を下にして寝ると症状がひどくなって、上にすると症状が楽になったり、
天候が悪いときにめまいがひどくなるなどの症状があればその可能性が高くなります。
地震後の生活の乱れや、ストレスなどにより、元々あった素因により発症したと考えられます。
よく「睡眠」をとり「疲れをとること」が大切ですが、早めに耳鼻科を受診してください。
⑤良性発作性頭位眩暈
寝床から起き上がったとき、寝返りを打ったとき、振り返ったときなど
「体を動かしたときに数秒から数分 ぐるぐる回るめまい」を感じたら、
この病気のことがあります。体を動かすと発作を繰り返すのが特徴です。
地震の時に、転倒したり、頭部を強く打ったりしたときは可能性が高くなります。
こんな時は「めまい体操」をお薦めします。
寝床で、起き上がる前に仰向けで20秒、首を右にひねり20秒そのまま、
また仰向けで20秒、首を今度は左にひねり20秒そのまま、また仰向けで20秒。
これを5回繰りかえしてください。
朝と夜の1日2回、一週間続けると、めまいが止まります。
一時的に、体操中めまいがひどくなるときがありますが、
続けていると徐々にめまいが消えていきます。
⑥頚性めまい
肩こりが強く、締め付けられるような頭痛があり、ふらふらするめまいや、
首をひねったときにぐるぐる回るめまいがあるときは「頚性めまい」のことがあります。
内耳への血流が悪くなる事によりめまいが起こります。
むち打ちや、頭部を強く打った事がある方に起こりやすいようです。
枕が変わったり、寝る環境が変わることにより悪化します。
こりをとったり、血流の改善剤や、ヨガが効果的です。
⑦起立性低血圧
地震の後、避難所の慣れない生活で、食事のバランスが悪くなったり、
睡眠不足や、ストレスなどが重なり、疲れが出ると、
起き上がったときにめまい、立ちくらみ、頭痛などの症状が出る方がいます。
立っていると悪化し、横になると落ち着きます。
立ち上がると血圧が下がり、脳に十分な血液を送ることができなくなることによる症状です。
疲れをとることが優先されますが「薬剤療法」で改善することも可能です。
⑧脳梗塞
水分摂取が十分にとれないと、脱水となり、
高齢の方で動脈硬化や、不整脈があると「脳梗塞」を起こす確率が増えます。
めまいのほか●手足の麻痺 ●激しい頭痛 ●言葉の障害などがあれば
すぐに救急車を呼んでください。
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以上、様々な場合をお話ししました。
また地震が来るという不安が、めまい症状を悪化させることは確かにありますが、
不安だけで地震酔いを説明することはできないことがご理解いただけたと思います。
地震の後、めまいを感じる方は、ご自分の症状と照らし合わせてみて、
早めに耳鼻咽喉科を受診してください。