人類の進化に関する新知見が、相次いで報告されています。
ヒト属はおよそ200万年前にアウストラロピテクス属から分化しました。
ヒト属を特徴付ける脳の発達は、直立歩行をするようになったことが重要とされていました。
しかし、このほか、いくつかの遺伝子の変異が影響したこともわかってきました。
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脳の発達
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まず、神経細胞のシナプス形成を抑制するCMAH遺伝子が、約300万年前に欠損しました。
このことにより、脳が急速に発達することが可能になったそうです。
脳の発達を抑制する遺伝子とは変な感じがします。
脳は生命を維持していくために、もちろん必要ですが、
大変な量のエネルギーを消費するので、あまり大きな脳を持つと、動物は生きていくのが大変になります。
動物には必要最小限の脳細胞で充分だったので、そのために脳の発達を抑制する遺伝子が必要だったのです。
この遺伝子が欠損したことにより、人の脳は発達しました。
脳は生命維持の他、多彩な働きをし、さまざまな革新的な発明が出来たわけですが、
その代わり、人は多くの煩悩も抱えることになりました。
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小顎化と頭蓋骨の発達
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そして240万年前、食物を咬む咀嚼筋の中にあるミオシンを形成するMYH16遺伝子に突然変異がおこりました。
猿人のものを咬むための筋肉は、頭頂部分と下顎をつないでいました。
食物を咬むという、生きていく上で重要な機能を維持するために、大変有利な構造でした。
しかし、咬む力が大変強いため、眼より上方の頭蓋骨は扁平化してしまいました。
遺伝子の突然変異により顎の筋肉が小さくなり、咬む力が弱くなったため、
下顎骨が小さくなり、頭蓋骨が大きく発達できるようになったとされています。
初めて道具を使ったとされる「器用なヒト」ホモハビリスは、
体格は類人猿に近かったものの、ヒト特有の頭蓋骨と顎の特徴を持っていたとされています。
脳自体の発達とともに、脳を入れる頭蓋骨が大きくなり、人の脳は飛躍的に発達することが出来ました。
小顎化が脳の発達を助けたということは大変興味深い事実です。
実は現代においても人の顎は小さくなっています。
ご高齢の方の頭蓋骨に比べ、30代より若い世代は、顔の横幅が狭くなるかわりに、前後方向に伸びるようになり、
下顎は、大分狭く小さくなっています。
将来人類は更に顎が小さくなり、脳が巨大化し、火星人のようになるのでしょうか?
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ホモサピエンスはなぜ、ネアンデルタール人に勝てたのか?
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さて、現在の地球には現生人類のホモサピエンスしかいませんが、
最終氷期の後期、約4万年前ごろには、現生人類の祖先であるホモサピエンスやネアンデルタール人、
インドネシアで化石が見つかった「ホビット」と呼ばれる小型人類のホモフローレシエンシス、
シベリア南部で発見されたデニソワ人、「ジャワ原人」「北京原人」の系統であるホモエレクトゥスなど
さまざまな種類の人類が同時に生きていたことも明らかになりました。
しかも、現代の人間とは別種のネアンデルタール人が、ホモサピエンスと交雑しており、
そのゲノム配列の1~4%が、現代人に移行していることも明らかになりました。
ネアンデルタール人はこれまで、ホモサピエンスとの生存競争に敗れ
絶滅に追い込まれたと考えられていましたが、実際にはホモサピエンスと交流し、
その遺伝子は現生人類に受け継がれていたことになります。
ネアンデルタール人は体力的にはホモサピエンスを完全に凌駕していました。
どうして私たちの祖先ホモサピエンスは、体の大きなネアンデルタール人に勝つことが出来たのでしょうか?
ネアンデルタール人の喉頭は発達が不十分で、うなる以上の言葉を発することが出来ませんでした。
これに対してホモサピエンスは音声をつくる器官の発達が高度で、言語を獲得していました。
より力のあるネアンデルタール人を、言葉を持ち情報の共有が出来たホモサピエンスが打ち負かしたのです。
言語は力に勝るものなのです。
人類の進化に、耳鼻咽喉科の要素が、大きく影響していたことがわかります。
耳鼻咽喉科医として、ややもすれば、
局所所見からの診断、局所処置主体の治療にこだわってしまいがちですが、
人類の進化の過程は、人体の一つの構成要素である耳鼻咽喉科に関連した器官が、
体の他の身体部位と深く関連していることを思い起こさせてくれます。
最近は、患者さんの全身状態、合併する疾病、精神状態、おかれている環境をもよく見ないと、
耳鼻咽喉科の病気も治療するのが難しくなっているように感じています。
院長