沢選手が罹患した良性発作性頭位めまい症について


なでしこジャパンが、アルガルベカップ2012で準優勝しました。
ワールドカップ優勝に続き、素晴らしい快挙でした。
リードされてもあきらめない精神力には、いつも励まされます。

準決勝戦から、沢選手の姿がピッチ上に無いことを心配していましたが、
良性発作性頭位めまい症という病気であったことが報道されました。
あまりひどい病気でなくて良かったと思います。
これを機会に、この耳慣れない長い名前の病気について、お話ししてみたいと思います。


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私たちの体の釣り合いを保つ前庭の構造
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私たちの耳の中には、音を聞く蝸牛という部分と、体の釣り合いを保つ前庭という部分からなる内耳があります。
前庭には、三半規管と耳石器官という、私たちの体が空間のなかでどのように動いているかを知るためのセンサーがあります。
耳石器官は、有毛細胞という毛が生えた細胞の上に炭酸カルシウムの砂がのっています。
体が動くと、慣性で砂と毛の間にずれが生じます。
このずれにより、新幹線に乗って動き始めた時の水平方向の加速度を感じたり、バンジージャンプをしたときの垂直方向の加速度を感じ取っています。


一方、三半規管は水平半規管、垂直半規管、後半規管と呼ばれるそれぞれが直角になった3つの円型のチューブがつながっている構造をしており、その中は水で満たされています。
チューブの一部には膨らみがあり、そこにゼラチンのようなものが浮遊していて、有毛細胞の毛が埋め込まれています。
体を回転させると、チューブの中の水が動いて毛が屈曲し、それによって体が回転している方向と加速度がわかります。
遊園地に行くと様々な、乗り物がありますが、水平半規管は、ティーカップのような水平方向の回転加速度を、垂直半規管はトップスピンのような矢状方向の回転加速度を、後半規管は、スーパープラネットのような前額方向の回転加速度を感じています。
平衡感覚が、砂や水が入ったチューブに浮かんでいるゼラチンの動きで制御されていることに
皆さんちょっと驚かれたかもしれませんね。

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良性発作性頭位めまい症の原因は?どんな症状?
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この三半規管と耳石器官はつながっていて、しかも、とても近くにあります。
耳石器官の耳石と呼ばれる砂がはがれて、三半規管の中に入り込んでしまうと、良性発作性頭位めまい症が発症します。

良性発作性頭位めまい症は、めまいを起こす疾患としてとても多い病気です。
体の位置によって、数秒から数分間という短時間、激しい回転性のめまいが起こります。
まさにぐるぐると目が回る感じです。
繰り返していると、回転性ではなく動揺感となることもあります。
患者様によって、めまいが起こる体の位置や、運動の方向が決まっていることが多いです。
たとえば、
仰向けから右に寝返りを打つとき、
落ちたものをかがんで拾おうとしたとき、
棚のものを取ろうと頭を上げたとき

などです。
頭の位置を戻すとすぐにめまいが止まります。

入り込んだ耳石が、体を動かすことによって、三半規管を過剰に刺激してめまいを起こしています。
耳石が入り込んだ半規管の種類によって、めまいを起こす体の位置や、めまいの性質が決まってきます。
入り込んだ耳石を三半規管の外に出せば、めまいは良くなります。
薬でよくなることはありません。

検査によって左右で計6個ある半規管のどこに耳石が入り込んだかを診断し、
耳石を追い出すための体操をします。
最初は、体操でかえってめまいが起こりますが、
数日つづけると耳石を三半規管から追い出すことに成功し、
めまいは嘘のように消えてしまいます。

耳石が入り込んだ半規管によって、体操の方法が異なります。
間違った体操をするとかえって悪化することがありますので、
ここでは、あえて体操の方法は書かないことにします。
専門医の診察を受けて、指導を受けて下さい。


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区別しなければいけない悪性発作性頭位めまい症
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頭の位置によって、めまいを起こす他の疾患に、悪性発作性頭位めまい症があります。
これは耳ではなくて、小脳に腫瘍や出血ができると発症する病気です。
悪性といわれるように命に関わる病気です。
めまいが長く続き、吐き気や頭痛が併発する点で、良性発作性頭位めまい症と区別することができます。


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では、どうして耳石がはがれるのでしょう?
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耳石が、どうして耳石器官からはがれて、三半規管に入りこんでしまうのでしょうか?
患者様にめまいが起こる前の状況をお聞きすると、
頭部を強く打つなどの外傷や、
中耳炎、
内耳毒性のある薬剤を使用した後などに、

起こることが知られています。
しかし、原因がわからないことの方が多いのです。

私も、柔道で投げられて頭を打った後に良性発作性頭位めまい症になった患者さんを治療したことがあります。
東日本大震災の時も、地震後避難するときに、転倒し頭を強く打ってからこの病気になった方がいました。
しかし、よく患者様のお話を伺っても、ほとんどは原因がよくわかりません。
沢選手の場合、サッカーで考えられるとしたら、ヘディングや、接触プレーでしょうか?
やはり原因はよくわからないのではないでしょうか?

耳石を追い出す体操をして、沢選手も1日も早く、ピッチ上で元気な姿を見せてほしいものです。

頑張れ、なでしこジャパン!!

院長

hozawa (2012年3月13日 14:52)