137億年前にビッグバンが起こり、この宇宙が誕生しました。地球の誕生はその90億年後です。地球上にアメーバのような単細胞生物が誕生するのに、26億年かかり、そして多細胞生物が生まれるのに、更に10億年が必要でした。その後はスピードアップし、次の10億年の間に、有性生殖、カンブリア爆発と呼ばれる生物種の爆発的な増加、魚類、地上生物、恐竜、哺乳類、類人猿、そして、ホモサピエンスの誕生が起こりました。アメーバからミジンコになるのに10億年かかったのに、ミジンコから人になるのに10億年かかっていないのは驚きですね。単細胞生物から多細胞生物に進化するのは大変なことだったのです。
多細胞生物として生きるためには何が必要でしょうか?まず、細胞同士がしっかり結合することが必要です。細胞同士の結合には、タイト結合などのしっかりとした結合と、ギャップ結合などのお隣さんとおしゃべりするための糸電話のような結合があります。チームで活動するためにはしっかりスクラムを組むと同時に、コミュニケーションも大事です。元ラグビー日本代表監督、エディー・ジョーンズも強調していましたが、一人一人が優秀でも、バラバラに動いては力になりません。お互いの意思を仲間に的確に伝えることが、生命現象でも大切です。
コミュニケーションは、お隣同志だけではなく、遠く離れた細胞同士でも行われます。今春、NHKスペシャル"人体"で取り上げられたメッセージ物質や、ホルモンなど様々な物質が、遠く離れた細胞間の伝書鳩となっています。更に、より正確に情報を伝えるため、自律神経や、感覚神経、運動神経が網の目のように張り巡らされ、多細胞生物内で完璧な情報ネットワークが形成されています。これは、どんな環境の中でも、恒常性を保って生き延びるために必須のシステムです。
多細胞生物として生きるためには、自分の体の一部なのか異物なのかを見極めることも大切で、これを行うのが免疫です。正しく、敵を認識し、的確に攻撃して、自分を守る必要があります。間違って、自分の体を攻撃しては、大変なことになります。
一方、体の中で頑張っている細胞に、酸素や栄養を供給しなければいけません。このためには、異物を取り込んで自分の体に役立つものに変えて、全身に供給する仕組みも必要です。免疫は自分の体から、異物を排除する仕組みですが、栄養を取るためには、自分の体に異物を取り込まなければいけません。この相反する事も、うまく折り合いをつけていることになります。
このように、多細胞生物として生きるためには、様々な複雑な仕組みが必要です。ところが、現代医療では、からだを構成するパーツである、臓器しか治療の対象にしていません。人間ドックを受けた事がある方は、報告書を見て下さい。胸のレントゲン、心電図、肝臓などの機能を見る血液検査、腹部のエコー検査、胃の内視鏡と、臓器のチェックだけですね。異常があれば、その臓器の治療が開始されます。異常がでなければ、正常と診断され、それでも、体調が悪いと訴える人は、自律神経失調症、更年期障害、年のせい、うつ病などと言われてしまいます。でも、自律神経やホルモン、免疫、栄養の検査はされませんでしたよね。多細胞生物として存在するために10億年かけて獲得した機能を、現代医学は完全に無視しています。しかも、10億年かけて進化した多細胞生物の細胞をバラバラにして、試験管の中で一個の細胞に効果がある薬をみつけ、これを治療に使っているのです。なんと、愚かなことでしょう。これでは、病気を理解することも、治療することも難しいでしょう。
物事の大本を探ると真実が見えてきます。新しい時代の医療のあり方のヒントが、多細胞生物の進化の中にみえています。
朴澤 孝治