睡眠の問題を解決したら、次に重要な環境因子は、やはり食です。
体を構成する物質なのに、自分では合成できないものがあります。それらは、食物として、体外から取り入れなければいけません。
体の中でエネルギーを産生したり、ホルモンを合成したり、免疫応答など様々な生命活動に必要な物質も、体外から取り込まなければいけないものがあります。例えば、イヌは、ビタミンCを合成することができますが、人は合成することができません。ビタミンCが不足すると、壊血病を発症します。改めて言うのも変ですが、空腹を感じて食事をすることは生命維持にとって必須のことです。
食事をしない方は、いないでしょう。問題は何を食べるかです。
食に関しての健康情報があふれていますね。
ためしてガッテンで、納豆は血栓を溶かすと報道されると、翌日には納豆がスーパーから無くなってしまうと言う話題はよく聞きます。しばらくすると、遺伝子組み換えの大豆を使用した納豆の問題や、納豆の食べ過ぎは腸内環境をかえって乱してしまうなど、納豆を食べる事へのリスクの情報が拡がります。何を信じていいのかわかりませんね。
東京オリンピックが決まると、海外のアスリートから、日本で使用されている油の質の悪さを指摘する声が上がりました。動脈硬化や糖尿病を助長するトランス脂肪酸が、海外では、摂取制限や表示義務が課せられているのに、日本では野放しです。アスリートが、日本滞在中の食事に不安を感じるのも当然です。つい先月、日本動脈硬化学会からも、警鐘がだされたほどです。
以前は植物性脂肪のマーガリンは、動物性脂肪のバターより健康的と考えられていました。しかし、現在は、トランス脂肪酸を含むマーガリンより、オメガ3を含んだバターのほうが健康によいとされています。利害がからむと、情報が操作されて、大切な事実が私たちに伝わらないことに、注意しなければいけません。
健康になるにはこれを食べればいい、逆にこれを食べてはいけない。この病気を治したいならこの食事をしなさい。などなど、上から目線で断言する本や、宣伝がメディアにあふれています。限られたデータや経験からできた意見は、ごく一部の人には有効であっても、すべての人にあてはまることはなく、有害でしかありません。
遺伝的に同一で、飼育環境も同じマウスを使って、かなり検討した計画で実験しても、決して毎回同じ結果になることはありません。私たち人間は、遺伝的にかなり雑種で、しかも生活環境もそれぞれ大きく異なります。実験マウス以上に、外界からの刺激に対する反応が、一人一人異なることは容易に予想できますね。
体を構成する細胞より多い、600兆個以上の細菌が、私たちの腸内にいます。この腸内細菌の種類も人により全く異なります。腸内細菌には、乳酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌がいて、消化を助けてくれています。一方、大腸菌、ウェルシュ菌などの悪玉菌もいます。最近は痩せ菌、デブ菌など、腸内細菌の種類により、体型が左右されることも報告されています。海藻を食べる私たち日本人の腸には、欧米人に比べ、海藻を消化する腸内細菌が多くいます。自分の腸内細菌の種類によっても、食べていいもの、悪いものが異なります。
このように、私たちは一人一人全く異なる個体ですから、みんな同じものを食べれば健康になるということはありません。
最近話題の糖質制限では、ダイエットや、糖尿病の予防効果があると推奨する一方で、糖質は体に必須で、過度の制限はかえって危険と、相反する意見が出ています。かなり熱のこもった議論がされていますが、私には不毛な、禅問答にしか思えません。糖質制限が体に合う方もいるでしょうし、逆に体調が悪くなる方もいるでしょう。これは当然のことなのです。
大切なのは、巷にあふれる健康情報に惑わされることなく、ご自分にあった食生活を探すことです。このために必要な、ホモサイピエンスとして共通の食に関する注意点を、次回よりお話ししたいと思います。
朴澤 孝治