日本人の約14%が慢性の便秘で悩んでいます。排便回数が週3回未満で、排便があっても残便感がある状態を便秘と言います。厚労省の調査によれば、60才未満では、女性が多く、高齢になると男女ほぼ同数になります。妊娠中や、排卵から生理までの間に増える女性ホルモンの黄体ホルモンが、腸の活動を抑えるので、生理前や、妊娠中は便秘しやすくなります。
食べた物は、胃などで消化され、6〜7mの小腸で栄養素が吸収され、1.5mの大腸で水分が吸収され、食べてから12〜48時間で便となって排泄されます。排泄までの時間に個人差があります。ほとんど消化吸収されない、トウモロコシなどのスループット食材を指標にして、食べてから便中にでるまでの時間を計ると、ご自分の排泄までの時間を知ることができます。大腸を通る時間が短いと水分が吸収されず、水分90%以上の下痢・軟便となります。大腸にとどまる時間が長いと、沢山の水分が吸収され、水分が60%と少ない硬い便となって、便秘の原因となります。大腸を適切なスピードで通過すると、水分を70〜80%含んで適度の硬さの健康な便となります。
さて、便は、食べ物のうち吸収されなかった残りと思っていませんか?実は食物残渣は1/3しかなく、残りの1/3は腸内細菌、1/3は剥がれ落ちた腸の粘膜です。ちょっと驚きですね。腸内細菌は、400〜1000以上も種類あり、合計100兆個も私たちの腸内に住んでいます。総重量は1.5〜2Kgにもなります。
腸内細菌には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌がいます。代表的な悪玉菌は、ウェルシュ菌、大腸菌で、タンパク質を分解し、腐敗物を作るので、便や、おなら、体臭がくさくなります。発がん物質も産生します。お肌は、腸の鏡と言うように、肌荒れの原因にもなり、健康に悪い影響を与える、まさに悪玉です。
一方善玉菌は、小腸に多い乳酸菌と大腸に多いビフィズス菌が代表です。乳酸菌は乳糖やブドウ糖を分解し、乳酸を作るので、腸内が酸性になります。善玉菌は、私たちの消化酵素では消化できない食物線維中の多糖類を分解して、短鎖脂肪酸、有機酸を作り、私たちにエネルギーを供給しています。有機酸が多く、酸性の環境では、悪玉菌は生きていくのが難しくなります。また、乳酸は、腸の蠕動を活発にし、整腸作用があります。このほか、ビタミンB群、ビタミンKや、ドーパミン、セロトニンを合成し、ミネラルや栄養素を吸収しやすくし、有害物質を分解し無害化してくれます。私たちの健康にとって沢山のいいことをしてくれています。
日和見菌は、腸内細菌の大部分を占めていますが、善玉菌が優勢になると善玉菌のように振る舞い、悪玉菌が優勢になると悪玉菌のように働く、ちょっと困った細菌です。日和見菌を味方にするために、善玉菌2、悪玉菌1、日和見菌7の比率にするのが理想です。悪玉菌の餌は、お肉をはじめとするタンパク質、善玉菌の餌は食物線維です。お肉は控えめに、食物繊維の多い食事を心がけましょう。
私たちの体の中に、こんなに沢山の細菌がいて、しかも、悪玉と善玉の抗争があり、その結果が、私たちの健康に影響を及ぼしているとは不思議な気がしますね。私たちの1個の細胞の中に平均300〜400個いるミトコンドリアをご存知ですか?実は、ミトコンドリアは、元々は細菌でした。私たちのDNAとミトコンドリアのDNAが異なることからも、ちがう起源であることがわかります。私たちの細胞は、元々酸素を利用することができなかったのですが、酸素を利用してATPというエネルギーを作る事ができるαプロテオバクテリアと言う細菌を、20億年前に細胞内に取り込んだことで、酸素を利用できるようになりました。特殊な技術を持つ会社を大企業が吸収合併したのと似ていますね。いつか、腸内細菌も私たちの体の一部になるかもしれません。
さて、快便のために必要なものは何でしょうか?病院では、便秘がある方に、大腸の粘膜を刺激するセンナや、便を軟らかくする酸化マグネシム、腸の蠕動を刺激するプルゼニド、グリセリン浣腸などが処方されます。長期に使用すると副作用が出る物もあります。特に酸化マグネシウムの長期連用は高マグネシウム血症を起こし、日本でも死亡例が出ています。
治療方法が、対症的で、本質を見誤っていますね。腸をいたずらに刺激したり、腸内環境を破壊する下剤を使うより、腸内細菌の抗争で善玉菌が勝つように応援すれば、事は足りそうです。ブルガリアは、長寿国ですが、乳酸菌を含むヨーグルトが有名ですね。善玉菌の餌の食物線維を多く取り、悪玉菌の餌の肉類は控えめに、水分を多く摂り、22時以降の食事は避け、適度の運動を心がける事で十分です。腸内細菌を殺してしまう抗生剤の、頻回の使用も避けましょう。乳酸菌など善玉菌を含むプロバイオティクスや、善玉菌の栄養となり、善玉菌を育てるプレバイオティクスなどのサプリメントを摂るのも有効です。快便に、化学合成された下剤は不要です。
毎朝すっきり快便で、健康を増進しましょう。次回は、腸と腸内細菌とアレルギーの関係についてお話しします。
朴澤 孝治