これでいいのか、日本の医療?   第20話 もう一つのアレルギー、3型アレルギー。知らず知らずに体調をこわす物を食べていませんか?

アレルギーというと、スギ花粉症や喘息などを思い浮かべると思いますが、これは前回お話しした、IgEというタンパク質で起こる1型アレルギーです。これとは別にIgGというタンパク質で起こる3型アレルギーがあります。

 

体内に入ってきた異物にIgGが結合すると、免疫複合体ができます。免疫複合体になると、マクロファージなどの貪食細胞が処理しやすくなり、ウィルスや細菌はこの免疫複合体の形で除去されています。ところが免疫複合体が除去されずに血液中を流れると、 その大きさや荷電の性質(磁石のプラス、マイナス)によって 体の様々なところにくっついて障害を起こします。これが3型アレルギーです。1型アレルギーに比べ、反応は穏やかですが、 慢性の体調不良の原因となります。食物に、3型アレルギーが起こることが、遅延型食物アレルギーです。

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ピョンチャンオリンピックで、見事金メダルを獲得したスピードスケートの小平奈緒選手の活躍は素晴らしかったですね。小平選手が、スピードスケートのメッカ、オランダに留学した時に、卵と乳製品のアレルギーになり、体調を崩したそうです。このアレルギーが、遅延型食物アレルギーです。アレルギーの原因を食べてから2~3日経ってから症状が出るので、なかなか原因がわかりにくく、自分の好物にアレルギーになっていることもあります。小平選手も、チーズなどの乳製品や卵が多いオランダ料理を毎日食べた結果、アレルギーになってしまいました。一流アスリートが食物アレルギーを克服して、成功することは、テニスのジョコビッチ選手の小麦グルテンアレルギーなどたくさんの例があります。

 

実は私は、今から30年以上前、東北大学大学院で3型アレルギーの研究をしていました。メニエール病や、滲出性中耳炎が3型アレルギーで起こることを証明し、東北大学医学部奨学賞銀賞と医学博士号を授与されました。図の黒い物質が、中耳粘膜に沈着した、免疫複合体です。

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30年が経ち、3型アレルギーの検査が簡単に行えるようになりました。その結果、難治なメニエール病の患者様のめまい発作が、食物による3型アレルギーによって起こる事が証明されるようになりました。そして、これまではステロイドに頼っていた治療が、ステロイドを使わずに食事指導だけで、病気を完治することができるようになりました。当時の基礎研究が、こうやって形になり、患者様の様々な症状が治療できるようになったことは私の大きな喜びです。

 

食物による3型アレルギーである、遅延型食物アレルギーが引き起こす症状は、以下に示すように様々です。

 

アトピー性皮膚炎、慢性じんましんなどの皮膚疾患、消化不良、便秘、下痢、口内炎などの消化器の不調、慢性の咳、喘息、鼻炎など呼吸器疾患、夜尿症など泌尿器疾患、憂鬱、不安、不眠など精神不調、慢性疲労、頭痛、自閉症、注意欠陥障害、てんかん、メニエール病などめまい、関節リウマチ、線維筋痛症など関節・筋肉の症状、体重増加、過剰な発汗 などなど

 

3型アレルギーの原因となる食物はなかなかわかりにくいものです。重度のアトピー性皮膚炎の患者さんが、小さい頃から、主治医に肉を食べないで、野菜を食べるよう指導されてきました。きちんと指導を守った食事をしていたのに、アトピーが改善しないので、3型アレルギー検査を受けると、野菜に軒並みアレルギーが見つかり、肉には全くアレルギーが出ない結果でした。健康的な食事を心がけ、タンパク質は鶏肉、大豆を中心に摂っていた方が、鶏肉と大豆アレルギーだったこともあります。よいと思っていた食事が、実は体調を悪くする原因になっていたとは、悲しいですね。

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慢性の症状がありながら、病院で検査をしても原因がわからない方は、遅延型食物アレルギーの検査を受け、アレルギーがある食物がわかれば、半年間、原因物質を食事から除くだけで、お困りの症状が改善する可能性があります。往々にして、ステロイドが唯一の症状を改善する治療であった場合、遅延型食物アレルギーが関係していることが多い印象です。ステロイドの長期投与は様々な副作用をもたらします。食事に気をつけるだけで、症状が改善するのであれば、副作用もありません。

 

1型アレルギーと腸内細菌の関係を前回お話ししましたが、3型アレルギーも腸と密接な関係があります。腸の中は、体の中にあるようで、実は体の外です。異物の侵入を防ぐため、腸の粘膜にはしっかりとしたバリアがあり、食物は、消化されて、ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸など、原形をとどめないくらいに分解されないと、腸粘膜を通過して、吸収されることはありません。IgGが異物と認識して、免疫複合体を作るためには、食物が、ある程度原型をとどめて、腸粘膜を通過して、体内に侵入することが必要です。つまり、遅延型食物アレルギーが起こる方の腸粘膜のバリアは、壊れているのです。この状態をリーキーガット症候群、腸漏れ症候群と言います。

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腸のバリアが壊れる原因として、偏食、過食など消化不良の原因となる食事、ジャンクフード、飲酒、食品添加物、不規則な生活、精神的ストレス、抗生剤、鎮痛剤、ステロイドなどの薬の連用、水銀などの有害金属、カンジダなど真菌感染などがあります。

 

環境因子として、食べてはいけない物を話しましたが、腸にも重大な悪影響を与えています。腸漏れが起こると、遅延型食物アレルギーの原因になる以外にも、有害物質や細菌などが体内に侵入しやすくなり、様々な病気の原因になります。最近は、リーキーガットの状態も検査でわかるようになり、治療方法も開発されています。

 

今回は、環境因子として、遅延型食物アレルギーとリーキーガットについてお話ししました。健康に重大な影響を与えるものが、毎日の食生活に潜んでいることに、私たちはもっと注意を払うべきです。そして、すでに問題が起こってしまっている場合でも、治療に薬は不要で、食生活や環境因子に気をつけることで、十分挽回可能なのです。

 

朴澤 孝治 

hozawa (2019年2月 7日 23:11)