これでいいのか?日本の医療  第7話 先制医療の幕開け

医学の父、ヒポクラテスは、『私たちの内にある自然治癒力こそが真に病を治すものである』『人間は誰でも体の中に百人の名医をもっている』と述べています。現存する中国最古の医学書である『黄帝内経』には、『上工は未病を治し、既病は治さない』と書かれ、同じ頃に書かれた『難経』には、『上工は未病を治し、中工は既病を治す』とあります。医学知識が限られた中での、先達の素晴らしい洞察力には、いつも驚かされます。人間には自然治癒力があり、それを最大に生かすべきである。普通の医者は、病気を治すが、名医はこれから発症することが予想される病気を発症する前に治す。このような、医学が始まった頃の考えが、正にこれからの医療のあり方を示しています。


現代医療は、病気を治す治療であり、その究極が対症治療です。先人達の教えに従うと、病気になる前の兆候をつかんで、発症する前に治してしまうのが名医の医療です。第29回日本医学会総会2015関西では、先制医療が、主要テーマの一つでした。先制医療は、神戸先端医療財団の井村先生が提唱された概念で、病気の原因となる遺伝子や病気の進行を示すマーカーなどの研究成果を生かして、病気を発症前に診断し治療することにより、病気の発症を防止する新しい医療のコンセプトです。

先制医療は、予防医学とは異なります。予防医学は、予防接種をしたり、食事指導をするなど、集団に対して一律の治療をおこないます。私たちは、一人一人が、見た目が異なるように、異なる遺伝子を持ち、生活する環境も異なります。ですから、発症しやすい病気の種類もリスクの程度も異なります。先制医療は、人によって治療内容が異なるオーダーメイドの医療といえます。

病気の発症を以前、ドミノ倒しに例えましたが、先制医療は最初のドミノが倒れるのを防ぐ医療で、病気の根治が可能です。カゼなどの急性症状は、現代医学で十分に根治することが可能ですが、高血圧など慢性に経過する病気には、現代医学では対症療法しかありません。先制医療は、これら慢性疾患の発症を予防する医療なのです。ようやく、先人達が考えた理想の医療の実現が見えてきました。次回以降、先制医療について、具体的にご紹介します。

 

朴澤 孝治

朴澤耳鼻咽喉科スタッフ (2018年10月 6日 09:25)