患者様が訴える症状の診断がつかないときに、医師が言い訳のように話す筆頭は、自律神経失調症、更年期障害、そして『年のせいですね!』 です。これを言われると、もう反論できません。諦めるしかありません。でもそうでしょうか?
昨年から、私も年金を頂戴する年になりました。先日、大学の同窓会に出席し、久しぶりに同級生に会いました。1学年120名ですが、若々しく昔とあまり変わらない人から、ずいぶん老け込んでしまい、すぐには誰かわからない人まで様々で、とても驚きました。既に他界してしまっている人や、病気療養中の人もいて、60歳前後で、随分人によって健康状態、加齢のスピードに差が出ると実感しました。
上の写真は、一卵性双生児の姉妹の写真です。生活環境によって老化のスピードが大きく異なる事に驚かされます。デンマークで、70才以上の387組の一卵性双生児を追跡したところ、年取って見えた方が、もうひとりの兄弟より早く亡くなった事がわかりました。遺伝的に同じでも、生活環境によって加齢のスピードが、大きく変化することがわかります。最近の研究では、老化に影響するのは、遺伝的因子が25%、毎日の生活の中に潜んでいる環境因子が75%と言われています。
最近、なんか体調が悪い、疲れがとれない、やる気が出ない、などと感じることがありませんか?年のせいと諦めるのは間違いです。実は、それぞれの症状には原因があり、その原因を放置するから、老化が進んでしまうのです。これが、最新の老化の考え方です。米国の抗加齢医学会では、『加齢を病気』と考え、病気なら原因があり、原因を治療すれば病気は治る、すなわち加齢を遅らせることができると考えて、研究が精力的に行われています。日本でも2001年日本抗加齢医学会が発足しました。
私たちの年齢とは何でしょうか?人には生年月日により決まる暦年齢と、肌年齢、血管年齢、骨年齢などの生物学的年齢の2つがあります。40 才の方が、肌年齢を調べたら50才だったとします。10才も老けて見えて、がっかりですね。残念ながら、医学が進歩しても、若返りの薬はありません。しかし、肌の老化を進めていた原因を突き止めて治療すると、老化の進行が止まります。そして45 才、50 才と年を重ねていくと、60才になったとき、肌年齢は 50 才のまま、10 才も実年齢より若い肌になります。これが、老化を病気と考える、アンチエイジング医療です。そう、もうおわかりですね。アンチエイジング医療は、70、80代の方だけの医療ではなく、40代、50代、60代から始める医療なのです。なぜなら、30代からすでに老化は始まっているからです。
人間ドックは、今現在、自分の体に病気があるかを調べます。3年後・5年後のことはわかりません。ですから、健診を毎年受けなければいけません。アンチエイジング健診は、5年後・10年後の病気を予防するために、今あるリスクを細胞レベルで知り、それを治療するための健診です。血管年齢をはじめとする体の各所の老化の程度、老化を進めている原因、老化から私たちを守ってくれる物質の量を知ることができます。ご自分の毎日の生活の中に潜んでいる老化を早める問題点や、ご自分の体の中で特に老化が進んでいる弱点を知るとアンチエイジングを効果的に行う事ができます。高価な化粧品をお使いの方も多いと思いますが、体の中からアンチエイジングを行うほうがより効果的です。そして、アンチエイジングには、なるべく早く取り組むことが大切です。
日本人の平均寿命は、世界トップですが、残念ながら健康寿命は世界一ではありません。健康寿命とは、"健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間"ですので、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。2016年において、この差は男性8.84年、女性12.34年でした。できれば、人生最後を迎えるまで、若々しく元気に毎日を楽しめることができたらいいですね。
毎日の生活に流されてしまうと、大局を見失ってしまいます。自分が頑張ればいい、我慢すればいい、という生活を続けると、どのような将来があるかがすでに示されています。アンチエイジングは、近年、基礎医学に裏付けされながら、格段の進歩を遂げ、美容の領域でイメージとして使われていた段階から、医療として実用される段階に発展しています。40代、50代、60代からアンチエイジング医療を始めることで、自立した明るいセカンドライフを楽しむことが可能になっています。もう、年のせいにはできない時代がきています。次回は、具体的にアンチエイジング医療をご紹介します。
朴澤 孝治