これでいいのか日本の医療? 第27話 健康に影響するスピリチュアルな因子とは? 中庸の徳とホメオパシー


WHOは健康を、『肉体的(physical)、精神的(mental)、社会的(social)に満たされた状態である』と定義しています。1998年にこれに『spiritual』を加えた案が提案されました。『Spiritual』には、精神的の他、霊的あるいは、宗教的な意味もあるため、この提案はいまだに承認されていません。私たちが、安寧に生活するためには、やはり経済的に安定し、社会生活を過ごせることが大切です。そして、もちろん心と、体が健康であることが必要です。では、健康に影響するspiritualとは、何でしょう?『中庸の徳』だと、私は考えます。

 

その人その人によって、長所、短所、性格、気質など様々な特徴、個性があります。几帳面な方は、綿密に計画を立て、物事をきちんと整理し、しっかりと仕事し、皆から信頼されます。ところが几帳面さが過度になると、パラノイアとなり、精神的にも、肉体的にも追い詰められてしまいます。強い外的影響が加わると、自分を見失ってしまうこともあります。人によって、体調や、気分には、幅がありますが、その中で最も調子がいい状態があります。平常心、中心軸、ゾーンとも言う状態を保つことを、『中庸の徳』と言います。

 

『中庸の徳』は、孔子が論語に記した言葉で、儒教の四書の1つでもあります。『過ぎることもなく、及ばぬ事も無く、常に変わらない事が徳として最上である』と孔子は諭します。古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、人間の行為や感情における超過と不足を調整する徳として『メソテース』をあげています。ギリシャ語の『メソテース』を英語に訳すと『Golden Mean』になり、日本語に訳すと、『中庸の徳』です。アリストテレスは、無謀と、臆病の中間が、勇気であると言いました。古くから、洋の東西を問わず、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』は大切でした。

 

現代のストレス社会で、『中庸』を保つことは難しく、自分を見失って、いきすぎた言動を行ってしまう危険に、私たちはさらされています。『中庸の徳』は高僧が、大変な修行の後にようやく悟る事ができる徳です。なかなか、私たちには得難い徳ですが、私には、自分を見失って体調を崩している患者さんを、『中庸』にもどす治療法があります。ホメオパシーです。

 

ホメオパシーは、350年以上前に、ドイツでサミュエル・ハーネマンが始めた医療です。その頃は、血液に病気の原因があると考え、血を抜いたり、患者さんにヒルを這わせて、血を吸わせたりと、今から考えると大変野蛮な治療が行われていました。ハーネマンは、このような医療に疑問を感じ、自然界に存在する、植物、動物、鉱物からレメディという薬を作成し、その治療効果を検定しました。現在まで、3000種類を超えるレメディが開発され、350年にわたってその治療効果が綿々と記録されました。今では、その膨大なデータがコンピューターに整理保存されています。記録には、レメディが効果を示した症状だけでなく、レメディが有効だった人の体質や気質、精神的な状態なども含まれています。

 

現代医学が、検査データなど事実を元に治療を行うEvidence based medicine(EBM)なのに対し、ホメオパシーは患者さんの訴え、お話を元に医療を行うNarrative based medicine(NBM)といわれ、現代医学とは対極の医療であることがわかります。現在、世界80カ国以上で活用され、WHOは現代医学に次ぐ規模の医療体系と認めています。セルフケアの他、医療機関でも活用され、保険診療に含まれる国もあります。症状に対応したレメディを用いて治療を行うのが主流ですが、私は、この方法でホメオパシーを活用することは余りありません。

 

中耳炎の子供さんがクリニックにいらっしゃったとします。患者様の強い希望がなければ、治療にホメオパシーは使いません。現代医療は幸い、患者さんの体にヒルを這わせて血を吸わせる事はもうしません。西洋医学はめざましい発達をとげ、ほぼ確実に3日以内に中耳炎を改善する事が可能です。今、活用できる最も有効で安全な方法を選択するのが、患者様にとってベストな医療だと思います。ですから、中耳炎のお子さんの治療には、ホメオパシーではなく、西洋医学を選択します。しかし、中耳炎でも次のような場合は、ホメオパシーを選択します。

 

1歳半の男の子で、3ヶ月間、中耳炎を繰り返しています。鼓膜切開をして、膿を出し、抗生剤を内服し、一旦よくなりますが、次の週にはまた中耳炎になる事を繰り返しています。過去3ヶ月間、ほぼ毎日継続して抗生剤を服用し、4回以上鼓膜切開を受けていました。お母さんが働いているので、保育園に日中は預けられています。夜、耳が痛くなる事が多く、泣き叫び、ずっとお母さんに抱っこされていないと泣き止みません。西洋医学ではこの子供さんの中耳炎を治すことができていません。ホメオパシーには、夜耳が痛くなり、泣き叫び、中耳炎を繰り返し発症し、抱っこされていないと泣き止まない子供さんに効果があるレメディがあります。このレメディを飲んで2週後には、中耳炎を一度も起こさなくなりました。

 

ジョン・ボウルヴィが提唱したアタッチメント理論を御存知ですか?生まれて間もなく、赤ちゃんは誰にでもニコニコしますが、半年を過ぎると、自分の世話をしてくれるお母さんとアタッチメントが成立します。すると、人見知りをするようになり、お母さんと離されそうになると分離不安から、泣き叫ぶようになります。1才半から3才までが、最も中耳炎にかかりやすい時期です。なぜ、この期間、中耳炎になりやすいかの科学的根拠が、いくつか示されていますが、アタッチメント理論による分離不安も中耳炎の原因になっていると私は思います。精神的な要因が免疫に影響すると考える精神免疫学が、近年、発達しています。子供さんの繰り返す中耳炎に対して、西洋医学はお手上げですが、ホメオパシーは大変有効です。

 

30代の男性で、大変厳しいお父さんに育てられたため、外的なストレスが加わると激しい動悸、呼吸苦を伴うパニック発作を起こしていました。向精神薬では改善はありません。他人との争い事を嫌い、消極的ですが、責任感のある人のためのレメディを1粒飲んだだけで、その後、パニック発作は起こさなくなりました。そして、ご自分とお父上との関係性を消化することができたとお話になりました。

 

50代の女性で、複数の習い事の師範をしている方がいました。沢山のお弟子さんを抱え、発表会も頻回にあるのですが、すべてお一人で企画、開催されていました。この方が突然、床から起き上がれなくなってしまいました。内科に入院しましたが、蛋白尿以外は異常が無く、点滴などの治療でも全く改善がありません。強い義務感から、沢山の仕事を抱えてしまい、その仕事を完遂した後に激しい疲労感に襲われる方のためのレメディを差し上げると、1ヶ月で回復し、仕事に復帰されました。何も聞いていないのに、『私は、何もかも自分でやろうとして、疲れ果ててしまっていた。これからはお弟子さんにも手伝ってもらい、分担して仕事をするようにする。』とご自分からお話になりました。実際にそうされて、発表会もこれまで以上に元気に行われるようになりました。そして、半年後、ネフローゼ症候群によるとされた蛋白尿も消えていました。過度にやり過ぎた方に、気づきを与えるには、繰り返すカウンセリングが必要ですが、ホメオパシーでは、『中庸の徳』が、短期間で発揮されます。

 

40代の女性の方が、200を超える高血圧、400を超える高血糖を起こし、急性腎不全となって緊急搬送されました。人工透析をし、インシュリンや降圧剤などの治療で、一命を取り留めました。大柄な方で、ユーモアもあり、人気者ですが、ややエゴが強く、大雑把で、身の回りも余り気にしません。元気になると、自分で血糖を測って、注射するインシュリンの量を決めたり、沢山の薬を飲むのが面倒になりました。このような性格の人のためのレメディをお渡しすると、1ヶ月後には、毎朝、低血糖発作を起こすようになりました。再検査では、血糖値は正常で糖尿病は治っていました。血圧も下がり、腎機能も正常です。糖尿病の治療は中止し、血圧の薬も1種類になりました。病気の発症はドミノ倒しに似ています。末端のドミノが倒れるのを防ぐためには、症状一つ一つに対応した沢山の治療が必要になりますが、最初に倒れたドミノをもどすと、枝分かれして倒れたすべてのドミノが元に戻ります。一つのレメディで、いくつもの病気が治ってしまうのです。

 

東日本大震災により、体調を崩す方が沢山いらっしゃいました。阪神・淡路大震災の時は、被災者の治療ガイドラインに、薬剤依存性を招くので、向精神薬をむやみに投与しないよう記載されました。その結果、アルコール中毒の方が、避難所で増えました。新潟県中越沖地震の時は、この反省からガイドラインで向精神薬の使用を制限しませんでした。結果、向精神薬の処方量が増え、薬物依存が増えました。東日本大震災では、ガイドラインには、ただ、被災者に寄り添うようにとの記載になりました。震災後、すぐに降圧剤などと共に、向精神薬が空輸され、やはり、震災後向精神薬の処方量が増えました。

 

ホメオパシーは、症状が同じでも、患者さんの気質、体質により違うレメディが必要になります。ところが、東日本大震災のような大きな影響が働くと、街全体が、同じエネルギーに支配されますライブコンサート会場や、サッカースタジアムの観衆が感じる一体感と似ています。こんな時は、一つのレメディで多くの人の症状を改善することができます。震災後の被災者が抱える共通の問題点から、レメディを選択し、被災者に無料で配布しました。名付けて、『元気玉』です。『元気玉』を飲むと、引きこもりになったり、めまいがしたり、食事が喉を通らなくなったり、などなど様々な症状を訴えた方々が、元気になりました。『元気玉』で、元気になった方が、震災後、餌を食べなくなり弱っていた飼い猫に、『元気玉』を与えたところ、ネコも元気になったそうです。

 

20代の女性が受診しました。厳しいお家で育ち、反抗期に親に反発して家出しました。ボーイフレンドのところに身を寄せましたが、そこで、集団レイプを受け、風俗で働かされる事になってしまいました。ようやく逃げて、実家に帰りましたが、暗い夜が怖く、一晩中灯りをつけ、眠れず、日中はゴロゴロとしていました。自分は汚いとリストカットしたり、家族へ暴言暴力をするなど、大変荒れた生活でした。様々な物に対する恐怖、凶暴性、暗いところで症状が悪化する方に合ったレメディを差し上げました。1ヶ月後に再来すると、随分日に焼けて健康そうです。なんと、植木職人に弟子入りしたそうです。夜は寝むれるかと聞くと、『仕事がきついので、夕食後すぐ寝ます。朝も早いので』とおっしゃります。

 

大きな外的影響により、自分を見失ってしまう事があります。まるでどこかに行っていた自分が、ホメオパシーの力で、本来の自分に戻ったかのようです。ホメオパシーで治った患者さんは、余り『有り難う』と言いません。感謝されるために医療をしているわけではないのですが、西洋医学的治療で、困っていた症状が改善すると患者さんは、大抵『助かりました。有り難う。』と言ってくれます。それに慣れてしまったせいか、ホメオパシーで治療された患者さんの態度に少し違和感を感じていました。結局の所、本来の自分に戻っただけなので、誰にも感謝する必要など無かったのです。

 

間違った考えで、偏った生活や仕事の仕方をしてしまうと、体調を崩してしまいます。大きな外的影響によって、自分を見失ってしまうこともあります。このような体調不良には、対処が難しく、治癒に導くまでに時間がかかります。ホメオパシーを利用すると、『中庸の徳』が発揮されて、短期間で問題が解決されます。ご自分の『中庸の徳』となるレメディを『シミリマム』『根本体質レメディ』と言います。過去350年間に蓄積されたデータの中に、あなたと似た背格好で、体質、気質が似ていて、同じような境遇にいて、あなたが抱える症状と同じ症状で困っている人がいたとします。その患者さんに有効だったと記録されたレメディが、おそらくあなたの『シミリマム』です。よく晴れた満天の夜空に、肉眼で見える星の数は約3000だそうです。『シミリマム』を探すのは、自分の星を見つけるのに似ています。ちょっと大変ですが、見つかれば『鬼に金棒』ですね。

 

環境因子に気をつけて、快眠、快食、快便、適度の運動とリフレッシュを心がけた生活をし、西洋医学で臓器の不具合を治療し、補完医療で、自律神経、ホルモン、栄養、免疫を調整すると、ボディとマインドの調子がよくなります。そして、ホメオパシーでスピリットをケアすると、ボディ、マインド、スピリットのトライアングルが綺麗に整います。これが、私が現在行っている、ホリスティック医学統合医療です。

 

朴澤 孝治

hozawa (2019年4月17日 12:26)