これでいいのか日本の医療? 第28話(最終話) 令和時代の新しい医療への提言


昭和、平成の時代に、日本の医療は格段に進歩し、全国に病院のシステムが構築され、医師の献身的な頑張りと、保険制度の確立により、WHOが世界最高レベルの医療に位置づけるまでになりました。その結果、日本人の寿命はほぼ倍まで伸び、世界最長寿国となりました。残念ながら、平成の後半は、死ぬまで薬を飲み続ける対症療法主体の医療となり、医療費の高騰を招きました。保険診療破綻の危機がささやかれ、国は病院数、ベッド数を削減する方向に転換しています。個人のレベルでは、介護、寝たきりの問題が起こり、死ぬ権利が議論され、介護のための離職など、若い世代までしわ寄せが生じています。日本人が70才までに使う、生涯医療費の半分は、健康維持のため有効に機能していますが、70才以降に使う残り半分の医療費は、個人にとっても、国にとってうまく機能しているとは言えません。新しい令和時代の医療はどのように変わるべきなのでしょうか?

 

これまでの医療を牽引した西洋医学は、欧米で発達した学問であるため、17世紀のフランスの哲学者デカルトの『心身二元論』の影響を強く受けています。物理的実態としての肉体と、魂、精神、意識などの機能を持つ心は、独立して存在すると言う考え方です。この影響で、西洋医学は物質である臓器の治療に先鋭化していきます。これまではうまくいきましたが、近年はその弊害が目立っています。

 

西洋の考えと相対して、東洋では、心と体は密接なつながりがあり、分離して考えてはいけないと言う『心身一如』が基本の考えです。この考え方が、現代生活では妥当で、自然です。以前は東洋が西洋に抱いた憧れは、今、西洋から東洋に対する憧れに変わっています。2016年にバルセロナで開催された第2回世界自然療法学会では、ドイツの療法家が、日本語のスライドを提示して、さじ加減の大切さを訴えるなど、東洋の考えを取り入れた医療の必要性を訴えていました。

 


視察したスリランカでは、アーユルヴェーダ医学を行う病院と、西洋医学を行う病院は分かれており、患者さんがどちらかを選択していました。私が指導した中国の病院では、病院に入り右へいくと西洋医学の医療を受けることができ、左に行くと東洋医学の医療を受けることができる仕組みでした。このように、西洋医学と補完医療は全く交わることがなく、むしろお互いに批判的に、行われてきました。

 

西洋医学により、患者さんが訴える症状の70%が解決できるとされています。東洋医学や、アーユルヴェーダチベット医学ユナニ医学などの補完医療は、西洋医学とは病気の考え方、診察の仕方、治療法が異なります。2000年以上の歴史は、それぞれの治療に効果があることを示しています。いたずらに批判、否定するのではなく、それぞれの治療のよい点を生かして、西洋医学では解決できない30%の問題を治療することができれば、治癒率を限りなく100%に近づけることができるはずです。これが統合医療です。

 

現に、アメリカでは、補完療法に関する独立した部門を設立し、癌研究を上回る額の国家予算を投じて研究しています。そして、例えば、戦傷者の疼痛ケアに関して、現行の麻薬などの鎮痛剤に比べて、日本の鍼灸が同等の鎮痛効果があると証明されれば、鍼灸治療を臨床の場で積極的に取り入れています。痛みも軽減し、意識がどんよりする麻薬の副作用も無いので、患者さんにとって有益である上、医療費の大幅な削減にもつながっています。イギリスでは、王室の主治医に西洋医学の医師とともにホメオパシー医が加わり、診療にあたっています。英国の王族は皆さん長生きですね。

 

統合医療に関して、日本は余りに遅れています。臓器レベルの問題は西洋医学で解決し、臓器の機能をコントロールする、自律神経、ホルモン、免疫、栄養、精神面を補完医療でケアする統合医療を、令和時代の医療のスタンダードにするべきです。日本で統合医療を始めようと、海外の医療施設を見学に行った医療関係者が、見学先の医師から、『私たちがしているのは日本の医療なのに、なぜ日本からわざわざ見学に来たのか?』と驚かれたそうです。日本食はマクロビオテクスに、直伝霊気はレイキに、瞑想はマインドフルネスに、鍼灸もアクプンクチャーと名を変えて、欧米では、保険診療にも取り入れられています。世界最高レベルの西洋医学の実力があり、日本古来の伝統医学もある日本は、70才以降の方のための、新しい医療の最先端を走る潜在能力を秘めていると言えます。医療関係者の皆様には、処方箋をきる毎日から解放され、患者さんを治す喜びを味わえる医療へ転換して頂きたいと思います。

 

患者様にとって、令和時代の医療のキーワードは、『自己責任』です。世界的に見て、日本人は保険診療により過度に守られてきました。これからは『お医者さんにお任せします』ではいけません。保険診療の破綻を防ぐために自己負担金が増える可能性は、非常に高くなっています。病院のベッド数は削減の方向で、医療システムからはじき出されて、医療難民になるリスクもあります。子供さんを始め、家族に介護・看護で、迷惑をかけるのは避けたいですね。

 

死ぬまで、自立して人生を楽しむために、Quality of Life(QOL)人生の質、更にAmenity of Life(AOL)人生の喜びを意識した、生き方を考えて下さい。ご自分の心と体の訴えをちゃんと聞いて、環境因子に気をつけて、快眠、快食、快便、適度の運動、気分転換を心がける生活をしましょう。臓器の障害や急性の症状は病院で解決してくれます。病院で解決できない症状は、薬に頼らないで、病院を出て補完療法を受けることを考えなければいけません。ただし、残念ながら、現在の日本の補完療法は、玉石混淆で、規制する法律もなく、いわば無法状態です。真剣に患者さんの健康を考えて、施術をする療法家がほとんどですが、健康産業に名を借りたお金目当ての詐欺や、知識・技量が不十分だったり、ドグマにはしって、患者様にスピリチュアルうつなどの健康被害をもたらす人もいます。よく調べてから、治療を受ける必要があります。安心して、補完療法を受けて頂くための全国的なシステムを現在、準備中です。

 

東洋医学的に、健康とはいえないが、まだ病気とも言えない状態を未病と言います。令和時代の医療は、病気になってから治療をするのではなく、未病の段階で病気の芽を摘む先制医療に転換していくことでしょう。その方が、患者さんの苦しみも少なく、医療従事者の負担も軽く、医療経済的にも有益です。健康なライフ・スタイルを考え、統合医療の可能性を最大限に生かすことができたとき、令和時代の新しい医療の形が見えてくるでしょう。

 

長期間にわたり、お付き合い頂き有り難うございました。

 

朴澤 孝治

hozawa (2019年4月28日 17:50)