痙攣性発声障害により、「声がつまってでない」と訴える患者様が増えてきています。
私が医師になった頃は日本ではほとんど診ることはなく、海外からの報告で知る程度でした。
ストレスの多い現代社会で、声を使う仕事に就職したり、アルバイトを始めることをきっかけに発症することが多いようです。
若い方に特に増えている印象があります。
痙攣性発声障害は、医師の診察を受けても、声帯に異常が見つからず、なかなか診断がつかないことが多いようです。
声の事で困ったら、音声の専門医を受診する事が大切です。
以前この病気のことをブログで御紹介して以来、全国から沢山のお問い合わせを頂き、実際にわざわざ仙台に来て頂いて手術をされた患者様も大分増えてきました。
ところが、声帯には異常が見られないのに、声がうまく出ない病気は、痙攣性発声障害だけではないのです。
今回は、声の詰まり、声の震えの原因となる、病気のお話をします。
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痙攣性発声障害
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痙攣性発声障害については以前詳しくお話ししました。
声を出すときに、左右の声帯が閉まりすぎてしまうので息を吐くことが出来ず、詰まった、息苦しそうな声になります。
局所麻酔下の手術を受けて頂き、その後言語聴覚士による音声治療を3~6ヶ月行うと、仕事でも、日常生活でもほとんど問題ない声になります。
術後に、音声治療をお勧めするのは、理由があります。
痙攣性発声障害の患者様は声帯に問題があって声がうまく出ないので、舌やのどちんこなど声帯以外の部分を工夫して何とか声を出そうとする癖がついてしまっていることが多いのです。
手術をして声帯の問題が無くなっても、この癖が残っているといい声になりません。
この癖を取るために、言語聴覚士による音声治療が大変有効なのです。
皆さん術後、3~6ヶ月の音声治療で、とてもいい声になり、治療終了となります。
自分は痙攣性発声障害と自覚しないで、毎日の生活を送れるようになり、病院に通院する必要もなくなります。
いつも自分がある病気だと感じながら、薬を飲んだり、様々な注意をしながら生活するのと、
病気が完治し薬を飲んだり、定期的に病院に通院する必要もなくなり、自分はその病気から解放されたと感じる状態になることは、患者様にとって全く違うことだと、私は考えます。
ですから、海外で痙攣性発声障害の治療の主流であるボツリヌストキシンの声帯内注射は、私は好きではありません。
注射して1ヶ月はややハスキーボイスになり、次の1ヶ月は良い声になり、そして徐々にまた声がつまってきて、再度注射をすることの繰り返しで、患者様は病気から解放されたと感じることは出来ません。
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Laryngeal Muscular Tension Syndrome(LMTS)
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適切な日本語が無いために、英語でお示ししました。
この声の異常は、誰でもなり得ます。
人前で話すのに、あがってしまったり、緊張しすぎで、声が震えてしまうことです。
家族や、友人と話すときは、声が震えることはありません。
横隔膜が痙攣して、うまく呼吸が出来ずに、声が震えることもありますが、
LMTSでは声帯を動かす筋肉が緊張しすぎることで声が震えてしまいます。
筋肉を弛緩し、気持ちを安定させるお薬を2週間飲んで頂いたり、
音声治療をすることで、比較的容易に、改善します。
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過緊張性発声障害
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LMTSに、似ていますが、喉をつぶして声を出してしまったり、
舌や喉の筋肉が緊張してしまうことで声が詰まります。
痙攣性発声障害の声に少し似ていますが、息苦しそうな感じはなく、いきんだ声になります。
声帯が振動することで音が生まれますが、その後声帯より上の部分、のどから口までの声道と呼ばれる空間で音が共鳴することで大きな声になります。
そして声道の形を変えることで、「あいうえお」といった様々な言葉が生まれます。
ギターや、バイオリンなどの弦楽器、ピアノなども共鳴する空洞があって、初めてあのようなきれいな、大きな音色が生まれるのです。
人の発声でも、声道は大切な役割を果たしています。
ところが、舌の奥に力が入りすぎたり、喉をつぶして声を出してしまうと声道が狭くなり、声が詰まってしまいます。
鏡で、アーと言いながら、ご自分の口の中を鏡で見てみて下さい。
Aの図のように、のどちんこが全部見えていれば正常です。
のどちんこが全然見えないか(図C)、少ししか見えないときは、過緊張性発声障害の可能性があります。
LMTSとは異なり、お薬を飲んだだけでは、通常は改善が難しいです。
言語聴覚士による音声治療を受けて頂き、喉の筋肉の力を抜いて、大きな声道を保つ練習をする必要があります。
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音声振戦
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痙攣性発声障害とよく間違えられる疾患ですが、全く病態は異なります。
音声振戦は、声帯が強く閉まることはないので、息苦しそうな絞り出す声ではありません。
声帯や、軟口蓋、舌など声を出すために働く筋肉の全部または一部が、声を出すときに律動的に痙攣することが音声振戦の原因です。
発声時に、共鳴腔である声道の形が変化するので、声はワンワンと揺れような感じになります。
アーと言いながら鏡で、自分の口の中をみて下さい。
のどちんこが、前後あるいは左右に踊るように揺れるときは、音声振戦の可能性があります。
音声振戦は本態性振戦という病気の一つの症状で、お薬を内服して筋肉の震えを抑えながら、音声治療で発声時の呼吸を整える練習をすると改善していきます。
残念ながら、お薬を継続することが、大切で、内服を止めると震えが再発してしまいます。
以上、声のつまりや震えの原因となる病気について説明しました。
このような病気は、単独で発症することが多いのですが、いくつかの病気が同時に起こってしまうこともあります。
たとえば、痙攣性発声障害に過緊張性発声障害や音声振戦が合併することがあります。
すると手術で痙攣性発声障害のつまる声が改善しても、声が揺れてしまったり、苦しそうな声になったりすることがあります。
このときは術後に音声振戦のお薬を飲んで頂いたり、音声治療を併用して、喉の緊張をとることが必要になります。
声の不調は、声以外は健康でも社会的に大きなハンディキャップになってしまいます。
周囲の理解が無いとなおさらです。
音声の専門医に相談し、正しい診断、正しい治療を受けられるのが、問題解決の早道になります。
どうぞ、お気軽にご相談下さい。
院長